第15話 面談

015 面談


かくして、面談が始まる。

多くの子供は日本に帰りたいという。

中には、ここの方がいいという子供もいる。

現実を理解していないのであろう。

日本ですら、法律で守られているなどとうたい、一部の人間が特権を享受する世界なのだ、いわんや法律も何もない世界。力こそが正義。そんな世界で日本人が生き残っていけるわけがないのだ。


勿論、彼らはギフト効果により物理的に強いものもいるが。

勉強したくないという理由だけでのこるなどとは、あまりにも世間知らずもいいところだ。

死んで後悔してもしかたないのだからな。


まあ、例の議員の孫は帰還に賛意を示したのでよしとしよう。

一人ひとりに、帰還に関する署名を貰う。


太白瑠葵。俺が読めなかった名前の女の子だ。

彼女は、戻らないという。

「君は、戻らないというが、この世界での君の仕事は簡単に言えば戦闘マシンだ、意味がわかるか?人でもモンスターでも殺すことを強要されるんだぞ。」

「帰っても喜んでくれる人はいない、ここの人は喜んでくれる」

美しい女の子だ。しかし表情は思い詰めている。


「思い込むのは、勝手だが、異世界というものは甘いものではないんだ」

「あなたに何がわかるというの」

「わからんよ、君の考えなどな、だが、ここにいればかならず君は利用される。そして、使い潰される」俺の声は断定している。


「彼らは歓迎してくれて!」

「はじめは皆そういった顔で近づいてくる。詐欺師が物調面で近づいてくるとでも思っているのかね、仕事が仮に完遂したとして、彼らは今までの歓迎顔でいると思うのかい」

そう、俺の経験上は必ず、そうなるときがくる。

敵を消えた後に、不安定な兵器など必要ないのだ。


「そんな」

「政治には、英雄はいらんのだよ、英雄はね、少し思い出してみればわかるだろう、源義経くらい知ってるだろう、彼は誰に殺されたのかね、兄だよ、彼がいると邪魔だったんだ、英雄の彼がね」


「でも、この国は危機に瀕しているんです」

「日本も危機に瀕していると思うぞ、出生率は低下し、周囲の国々がことあるごとに難癖をつけてくる、それでも国内の政治家は憲法9条を守れば、敵は来ないなどといっている。本当にそう思うかね。私が敵国の元首なら、そいつらに金を送ってどんどん信者を増やすと思うね」


「あなたは!」

「まあ、俺はただの公務員だから、あんたがこれにサインしてくれたら結構だよ。自分の意思で残るか帰るかね」

俺は紙をピラピラと振る。

目の前の勇者候補の少女は明らかにイラついていたが、そんなことは、この際関係ない。

大きな力を持った者は、どちらにしても考え方が変わる。

というか、下々とは出来が違うから、考え方自体が違うのかもしれない。


「私は!」

「帰った方がよいと思うよ、日本の方が暮らしやすい。異世界帰りの俺が言うんだ。間違いない」


「君は、まだ子供だ。人を殺す覚悟はできているのかい」

「え?」

「この世界で生きるとは、人を殺すことも含まれる。国を守るために、兵士に死ねと命じることも必要になる。直接、命を狙ってくる人間もいる。勇者は、どこの国でも欲しいんだ。君はすでに、狙われているといっても過言ではないんだよ」そして、用が済めばこの国の人間からも狙われるのだ。魔王も存在しないのに、魔王討伐を受けることができるはずがない。

あちらの国が、魔王に操られているというが、こちらが操られれていない証拠などない。

この際、誰を信じるか信じないかに過ぎない。

そして、俺ならだれも信じない。特にこの国の王などはもっての外だ。


「あなたは人を殺したことがあるのですか?」

「さっきも殺しましたけど、あんた等の面談にこぎつけるためにはそうする必要があったわけですが、何か?」


少女は蒼白な顔になった。

目の前に殺人者がいるのである。

日本では、このようなことは滅多に起こらない。


ブルブルと震える少女。面会は続行不可能だった。

つまり、そういうことを何事もなく行えるような人間でないと、生き残ることはできないわけで。彼女では無理なのだ。


榊原 太陽

彼は、さすが勇者候補筆頭であった。

勇者スキル、グランドクロスという必殺技を会得したという。

そして、彼の友人たちは、戦士、聖女、魔術師という典型的な、チームを構成できるようだ。

「私は、公務員の影野だ、君らの奪還と賠償金の確保を行うために遣わされた、異世界帰りの男だ」

「わざわざ、すいません」さすが勇者。頭脳も明晰そうだ。

「君たちは、自分の意思で決めるといい。しかし、先ほどの女の子にもいったが、帰った方がよいといわせてもらう。」

「太白さんですね、彼女は連れて帰ってあげてください」

性格までイケメンだ。

「すると、君は帰らないと?」

「ええ、この世界を救うという使命がありますから」

「君の仕事なのかね、神の指令とかあったのかい」

「いえ、しかし、このスキルを得ていますからなんらかの義務があると思うんです」

「はっきり言うけど、だからといって君になんの得があるというのかね」


「損得の問題でしょうか」その目は美しかった。

自分はずいぶんとゆがんでしまったなと考えさせられるほどに美しかった。


「そうだね、自分が損得勘定だけだからといって、君がそうとは限らないからね」

「影野さんには感謝しています、わざわざこんなところまで来ていただいて、それに、多くの仲間を連れ帰ってくれる、このままでは、多くの仲間が死んでしまうことになりそうでした」

「それがわかっていても、残るのかね」

「はい」

「そうか、君は勇者なんだね」

「そうかもしれません」

面談はそうして終わった。



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