第13話 外交交渉?だったよね
013 外交交渉?だったよね
アーセナル卿は、勇者召喚には反対だった。そもそも、目的が不純だ。他国を攻めるための武器として呼ぶなどとは、しかも、勇者が必ず勇者とは限らない。
莫大な費用をかけて行う儀式、効果は推し量るしかない。
ある意味ばくちである。
しかし、王から不興を買うことも避けねばならない。
その結果が今の現状である。
勇者らしきものは確かに存在した。
しかも2組も。
だが、事態は混沌としてきた。
目の前の男はその世界からやってきたのだという。
与太話の類ではないのか?
勇者召喚は、秘儀である。
帝国に漏れることはないはずなのだが、どこかで聞きつけたのか。
召喚はできても、帰れた勇者はいない。
それが歴史の真実である。
帰ることもできない世界から迎えが来たのだ。
歴史の大転換に直面しているのか?
セルティクスの額には、嫌な汗が流れる。
「ところで、お前は本当に日本から来たのか?それをどう証明する」
「子供たちと話をさせてくれ、そうすれば、わかるだろう。身分証は見せたとしても、お前らにはわかるまい?」
「無礼だぞ!」と衛兵。
「そちらもお前呼びなのだ、こちらも相応に返しているのだがな」
彼は日本人ではあったが、異世界帰り、日本国の外交のように、いつも遜ることがよいとは、限らないということを知っている。というか必ず舐められて、良い結果を残さないのだ。
特に相手が訳の分からない理屈で動いているような人間ではなおさらだ。
そして、日本人たちがやってくる。
「良く聴け、俺はお前達を引き取りにやってきた。」
「ええ!」
「やったあ!」
涙ぐむ生徒、喜ぶ生徒、どうしようかと迷う生徒、悲喜交々である。
それは、日本語ではなされたので、明らかに彼らに伝わった。
「これで、わかっただろう。俺は日本語でこいつらに語りかけた」
「静粛に、良く聴け」騒ぐ生徒たち、すでにこちらの衣服を着ている、黒目黒髪の人間たちに厳しめの口調でいう。
「いいか、俺はお前達を引き取りに来た。だから、帰りたい奴は手を挙げろ」
半数以下しか、手が上がらない。
やはり、おもった通りである。
息苦しい、閉塞した日本に帰りたいと純粋に思える人間は少ないだろう。
「俺は日本政府の命令でお前達を迎えに来た。だが、この迎えは今回だけだ。帰る帰らないは自由だが、このチャンスを逃がしたら、迎えはもう来ない。たとえ君らが死にかけようと、死のうとだ」
この世界で生き抜くことの大変さを少しは感じてくれていればよいが。
「魔王を討伐したら帰れるといっていたました」一人の生徒がいう。
「君は、帰った人間をその目で見たか?」
「いえ、でも宰相様がそう言いました」
「じゃあ、俺がお前に金を返すから、有り金すべてを貸してくれといえば貸してくれるのか?」
「オーストラリアのあの山には、金が眠っているから、出資しませんかと、見たこともない山を地図で指をさされたら、お前は出資するのか」
「自分の命だ、自分で考えろ、俺の任務は、強制してでも連れ帰れとはなっていない」
そこが、日本のおかしなところなのだ。なんでこんな状況で、意思確認が必要なのか?
無理やりにでも連れ帰れとなぜ命令できないのか、あまりにも世界が見えていない。
日本国の政治屋どもめ!
まあ、抵抗されると簡易棺桶に入れるのが面倒くさいのだが。
「ちょっと待ってくれ、この国は未曾有の危機にあるのだ。どうか助けてほしい」と宰相が口をはさむ。
「そうなんです、この国の人々を助けてあげたいんです」
「では、お前が助けてやれ、他の者はどうか、自分のことだ自分で決めろ」
これで、多数の人間が手を挙げることになる。
「ちょっと待て、その方は勝手に城に侵入した罪人だ、そのような無法を許すわけにはいかん」
ついに人質の救出はあきらめたのか。
「ちょっと待て、子供たちを強制的に拉致したお前達に罪人呼ばわりされたくない」
「待ってくれ、儂がおるのだぞ」とセルティクス。
「死ねということじゃないのか」と皮肉を言う俺。
「アーセナル卿助けてくれ」
「セルティクス、残念だ。王は決断された」
まさかの死刑宣告。
衛兵たちが包囲を狭める。
やはり、こういう野蛮人たちの国なのだ。
だから、嫌だったんだよ。
始めからよ。絶対に10億貰ってこの仕事からおさらばしてやるぜ!
剣は、すでにセルティクスの首に切れ目を作り、血が流れている。
兵士たちの包囲は、それでも止まることはない。
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