第11話 接触
11 接触
王都の郊外では、魔獣討伐の訓練が行われている。
訓練といっているが、本物の魔獣と戦っている。
明石君からの情報が届いた。
彼らが、城外にでて訓練を行うとの情報だった。
ダブルホーンバッファローと呼ばれる、牛のような魔獣であった。
名前の通り、2本の角が鋭く螺旋を捲いて、空に向かっている。
この角に引っ掛けられると、大けがをする。
危険な魔獣だ。
もう一つ、巨体なので簡単には死なない。
体力に満ちあふれているのだ。
一般人ならば簡単にひき肉にされるという。
怖ろしい魔獣でもある。
「掛かれ!」指揮官が命令すると、兵士が突撃する。
槍を構えて突撃である。
しかし、魔獣も自分を攻撃する人間に簡単にやられてやる義理や道理はない。
巧みにステップを踏み巨体を揺らしながら、槍をかわして角を振るう。
バッファローの皮は強靱で、槍の突きも力が足りないと、傷を与えることすらできない。
「うわ~」
「引くな馬鹿者!」
一人が角に引っ掛けられると、バッファローは頭を振って兵士を巻き上げる。
兵士は自分の重みで角に深く突き刺さり、傷を深くしてしまう。
振り落とされたときに、バッファローはひずめによる踏みつけ攻撃を狙っていた。
「ぐわ~」新米兵士はバッファローに踏みつけられる。
よくも、顔を踏まれなかったものだ。顔を踏まれれば、頭が簡単に避けただろう。
そうすれば即死である。
「救出せよ」
正規兵がバッファローを牽制し、負傷兵を引っ張りだす。
「何をしているのか!もう一度かかれ!」
指揮官は、厳しい命令を下す。
彼らは、新米の兵士、我々が呼ぶところのアブダクティッドだ。
大したスキルのないものは、兵士として処遇されている。
「殺される!」
「掛かれ!」
当然、戦闘スキルのない高校生などを魔獣と戦わせること自体が間違いだと俺は思う。
しかし、俺の考えなど、この世界の者には通じまい。
そもそも、理解しあえるはずもないのだから。
「おい貴様、訓練の邪魔だ」指揮官が早速俺を見つけて命令してくる。
俺は、冒険者の格好をしている。
銀光が舞う。
バッファローは首を切り落とされる。
腰のミスリル刀は、一瞬で其れをやってのける。
「どうも治癒魔術が必要なようだが、」
「貴様、訓練の邪魔をするな」
「これが訓練ですか、まるで使い潰すような訓練ですな」
「王国の兵士は強壮でなければならんからな」
「なるほど、腹を踏み潰されても、生き返るような強さが必要なわけですな」
「・・・」
「では、某が、貴殿の首を切り落としても、きっと生きているような強壮さがおありなのですな王国の兵士ですからな。では一手御指南願おうか」
ミスリル刀は怪しく光っている。
「そんな人間がいるわけがなかろう」
「そうですか、腹を踏みつぶされても生きていけるなら、問題ないのでは?」
「おい、早く治癒をかけろ」
「駄目です、傷が深すぎます」
体重一トン以上の魔物に踏まれたのである。
簡単な治癒魔法では治るはずもない。
少なくとも肩は、粉砕骨折であろう。
「どけ!」治癒士を突き飛ばす。
「ふん」治癒魔法が放射され血が止まる、しかし、骨の治療までは無理である。
その間兵士たちは、ダブルホーンバッファローに群がり解体しようとする。
「私の獲物に何をしている。倒したのは私だ」
「発見したのは我々だ」
王国と俺の会話はどこまでも、平行線のようである。
礼すらないとは、そういうことなのだろう。
なるほどこの国の兵士とはこのような存在なのだなと嘆息するのであった。
きっとこの国の上層部も似たような感じなのに違いないだろう。
バッファローの死体をアイテムボックスに強制的に収納する。
「貴様なにをする」
「逮捕せよ、吐かせてやる」
「城でたっぷり吐かせてやれ」指揮官が命じる。
これで目標は達成した、城に入りたかったのだ。
ただ、本当は、高校生を治療して恩人として侵入する予定だったが、犯罪者同様の扱いで入ることになってしまったという訳だ。
だが、結果は同じだ。問題ない。
木枠で両手を封じられる。腰に鎖を打たれる。
何とも、ひどい世界に来てしまったものだ。
今後生まれてくる私の子供のことが少し心配になった。
見ることはないだろうがな。
生徒の一人は呻きながら、歩いていた。
俺は、引っ張られて歩いていた。
兵士たちは気づいていないが、俺の取り立ては非常に厳しいのだがな。
これは遠慮する必要もなさそうだ。
情けは味方、仇は敵なり。
昔の名将の言葉である。
この世界では、人は捨て駒、時間稼ぎと名将が言っていそうで怖い。
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