第3話 棺桶5号

003  棺桶5号


しかし、不思議だ。

異世界にも、いろいろなあるようだが、金(ゴールド)は必ず存在する。

そして、必ず貨幣の体系の中に存在する。

金貨とか小金貨、大金貨などである。

金貨以上の体系の上には、聖貨、白金貨などあるが、果たしてそれが何でできているのかは不明である。


ゆえに、日本政府が賠償に要求するものは、金貨である。

少なくとも紙幣を貰っても仕方がないし、鉄鉱石など貰おうとしても、ものすごい量になる。

やはり金(ゴールド)なのだ。

勿論金貨でも可である。

金の重さでいただいてくるということになる。


金による錬金術は、現代でもまかり通る。

例えば、消費税のない国で金を買い付けて、日本で売れば、消費税相当分を手にすることができる。

この世界でも金はスタンダードな財産なのである。

因みに上記の方法は違法であるので真似しないように。


新潟県某所では、魔法陣の構成が行われている。

水晶を砕いた粉と鉄粉、そのほか成分極秘の粉をよく混ぜたもので、図柄を書いているのである。

直径20mにも及ぶ大作である。


その側には、マギトランサーを積んだトラックに極太の電線が何本もつながれている。

何故新潟県の某所でこんな事をしているのか?

それは、極大電力を要するからであり、それを発生する装置がそこにあるからである。

原子力発電所の事である。


この装置あるいは儀式は極秘であるため、天井が設置されている。

米国などのスパイ衛星から見られないための措置である。

政府は、米国ではなく共産主義国からの遮断のためといっているが、米国にもこの技術は、伝えられていない。


そして、その図柄の中心には、人一人が乗ることができる、時空転移投射装置(アナザーディメンジョンダイバーズ)通称棺桶5号が存在する。


外層はチタン合金製でその内張りはFRP製の非常に高価な棺桶である。

操縦装置のようなものは存在しない。

まさに、棺桶である。

計器もない、あっても、巨大なエネルギーですぐにぶっ壊れるからである。

特攻機には操縦桿が存在したが、棺桶5号はまさに、到着するか、到着しないか神のみぞ知るという神がかりな箱であった。

到着しない場合は一体何処へ、いくのかすら不明である。


ああ、その場で焼き殺されるという選択肢もあったな。

そして、俺はそのパイロットいやダイバーなのだ。

パイロットよりもダイ(死ぬ)バーなのだ。


この気持ちが貴様らにわかるか!と叫び出さないのは、俺が素晴らしい責任感をもった、正しい人間だからだ。嘘です。


異世界帰りの俺は某『乱暴もの~』という映画の主人公の如くこの世界になじめず、そして、周りもそのような扱いになってしまった。

そして、俺を利用しようと近づいて来た政府の手先になることにより生活することになったというわけだ。


因みに俺を導いてくれる大佐はいない。

日本の自衛隊では1佐しか存在しないので無理なのである。

ゆえにアイテムボックス(スキル所持)の中には、弓矢セットが存在する。

だが、ダイビング中に落としてしまうかもしれない。少し心配だな。


「エイリア~ン!」俺は叫びそうになった。

少し情緒不安定なのだ。


だが、その叫び声は別の何かを呼び寄せるかもしれないので、口を噤んだ。

本当に来たらヤバいよね。


それ以外にも、アブダクティッド用の棺桶簡易型や武器、食料諸々もいれている。

少し説明すると、何故簡易版なのか、これは、地球に戻る場合、強力な発信装置が存在するため、割と目的地を簡単に設定出来、出発よりも少魔力で済むためである。

それにしても、それなりに強力なエネルギー源は必要なのだがな。

武器は、自衛隊からの供与を受けている。


そもそも、俺は、在外公館警備対策官(国家公務員)、つまり外務省の公務員、特に外交官の分類に入るらしい、でありこの対策官は自衛隊からの出向者の扱いでなっている。

だから自衛隊の階級、3佐でもあるのだ。

「少佐と呼んでほしい」


この妙な身分は、東京大学出身の賢い人間がいろいろなことを想定し考えてくれたのだそうだ。

但し、公務員であり、自衛隊員であるため、自ら先に攻撃を加えることはできない。

また、民間人に対しても、日本国の民法や刑事訴訟法が適用されるため、妙なことはするなと厳命されている。

一体、何縛りの超ハードモードなのだろう。

「俺に死ねと言っているのか!」

「敵は武器をもっているんだぞ!」

現場に赴く隊員のことを全く省みない奴らなのだ。


勿論、異世界では、人権など毛ほども尊重されないのは定番である。

まあ、そういうわけだから、交渉が上手く行かなくても、仕方ないで終わったりするのだがな。人命よりも自分の命を優先するのだ。



宇宙人のような耐熱スーツこれは、ナサが開発したスペースパイロットが着るものと同じ。それを着た俺は、棺桶5号に乗り込む、というか寝転ぶ。

宇宙服ならば多少の温度上昇に対応できるという安直な理由である。

棺桶の扉は内部からのロックである。

外からだと出られないからだ。本当の特攻になってしまう。

できたら、某アニメのノーマルスーツ程度にしてほしかった。


「カウントダウンスタート」

まさにロケットの点火とおなじような緊張感である。

マギトランサーに大電力が流入し、それが魔力に変換され魔法陣へと流し込まれる。

魔法陣は紫色の光を放ち始める。

「ファイブ、フォー、スリー」

ブーンという何かの振動音が発生し始める。

トラックの荷台のマギトランサーも紫に発光を始める。

勿論、棺桶5号の中にいる俺には見えていないがな。

「ツー、ワン」

魔法陣は金色に輝き、魔法陣の中心の棺桶5号は高熱で燃え始める。

「ゼロ」

魔法陣は本日最強の金色の光を放ち、研究者や自衛隊の技官等の眼を焼いた。

バン!爆発音ともに、棺桶5号は消え去った。この爆音は爆発ではなく、棺桶5号が音速を越えた時に発生させた衝撃波である。あくまでも仮説の域は出ないがな。


魔法陣の図柄で蒼い炎が揺らめいていた。高熱で発火するのだ。


そうして、俺は又も異世界へと旅立つことになった。


さすがに2回目の異世界に手を出す数寄者もおるまいて。


勿論俺は数寄者ではないがな。



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