第19話 もう一つの事件
子供達が全員戻ったこともあり、事件は解決したかのように安堵感が漂っていた。しかし、子供達の他に連れ去られていたもう一人については何の情報もないままだった。
今回もウィンダルとここヴァルドシュタット両国にまたがった犯行だったが、ヴァルドシュタット側で犯人を捕まえたため、捜査の主導権は当国にあった
洞窟で見つかった七人の子供のうち、五人はすぐに親元に引き取られた。ウィンダルの子供二人は親が子供を差し出していたことがわかり、ウィンダルで親が聴取を受けた。教義に基づく奉仕だ、と主張していたが、子供が殺されかけたことを知り、顔を青ざめていたという。
犯人は教団関係者と、そうではない者がいた。
儀式のため子供を集めたい教団と、依頼を受けて子供を始末する組織。
七人そろえば教団が勝手に子供を殺してくれる。七人のうち三人は高額の報酬で殺害を依頼された子供だった。あくまで教団による誘拐に巻き込まれたと装い、殺人の罪は教団に着せる。
洞窟で子供を引き渡して雲隠れする予定だった者たちが捕まったことで、十二年前とは違った展開になった。
子供の殺害を依頼した者の名はまだ明かされず、引き続き捜査が行われている。
また、誘拐した子供を一時的にかくまうための倉庫を提供していた商人も捕まった。子供を運ぶのに商品を運搬する箱に紛れ込ませていたこともわかった。
捕まった商人を見てアルトゥールは驚いた。数日前に城下町で会い、アーレと会話を交わしていた、娘を連れた夫婦の夫の方だった。
フリッツ・ミュラーは、抵抗することなく警備隊の取り調べに応じた。そして教団に脅され仕方なく倉庫を貸した、何に使っていたのかは知らず、子供の運搬にも関わっていない、と主張した。
しかし、フリッツはその取り調べの部屋にアルトゥールが姿を見せると、明らかに動揺を見せた。たった一度、街中で会い、アルトゥールはアーレの隣にいただけだ。一言の会話も交わしていない。それなのに、アルトゥールの顔を覚え、怯えている。
「アーレがおまえらの仲間に連れ去られた。心当たりは?」
アーレの名にフリッツは目を見開き、震えながらぶるぶると首を何度も横に振った。
「あ…アーレ様が。ぞ、存じません、初めて聞きました。何故、アーレ様が…」
街で会った時の違和感。それは言葉遣いだった。
年下のアーレに「アーレさん」といい、へりくだった態度でアーレに丁寧な言葉で話し、アーレの方が砕けた言葉で声をかける。それは無邪気な子供が大人に礼を欠いた態度を取るのとは違っていた。
その違和感に反抗するかのように、娘の、アーレに対して見せた憎悪の視線。
そして今、アーレのことを「様」付けで呼ぶ。
「おまえと、教団と…アーレの関係は?」
「ぞ、存じません。本当に連れ去られたことは何も」
「二年前に、みんないなくなったと言っていた。十年過ぎたから、いなくなった、と。どういうことだ?」
「お、お許しください。私どもはもう刑期を終えております」
「刑期?」
「ウィンダルの王より、十年間森で過ごし、アーレ様をお育てすれば後は不問に処す、とのご沙汰を受けたのでございます。もう過ぎたことです」
「何の刑だ」
表情を変えることなく冷静にフリッツを見るアルトゥールの目に、フリッツは俯き、手を大きく震わせた。
そして、ゆっくりと、アーレに関わる話をはじめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます