第18話 脱出

 幌の張られた荷馬車に子供七人が積まれ、上に布がかぶせられた。

 大人は四人。二人は馭者台に乗り、二人は子供をよけて荷車の前方に乗っていた。

 テオはうまく寝たふりを続けてはいたが、布をかけられてからずっと心臓がバクバクと音を立てていた。周りの子供達は身動き一つしない。眠ったまま運ばれている方がずっと楽だっただろう。だけど、自分が助かれば、みんな助かる。


 「みんなを助けるのは、自分が助かってから」


 そう言ったアーレのことを思い出していた。

 アーレが一緒に乗せられていないのが気になっていた。それでも自分が助からなければ、誰も助からない。

 さほど進まないうちに馬車が止まり、荷台にいた大人も呼ばれた。

 荷馬車に大人が誰もいなくなったのを確認して、そっと這いながら抜けだし、上にかけられていた布を整え、荷台の下に隠れた。

 やがて大人達が戻り、荷台に何かを積み込み終えると馬車が動いた。テオは馬車が見えなくなるまで、道に伏せたままじっとしていた。


 そこは小さな町だった。数件の家があり、明かりも漏れている。

 だが、気をつけなければ。奴らの仲間がいるかもしれない。奴らが立ち寄った町なのだから。人はいたがこの町は避け、あえて馬車が進んだ反対方向に向かった。

 ずっと眠らされていて、あまり食事を取っていなかったので、歩くだけでもきつかった。

 夜の道はアーレの言ったとおり、自分の姿を隠してくれる。通りすがる馬車をやり過ごし、ひたすら道を進み、どれくらい歩いたかようやく少し大きな街に着いた。

 ずいぶん遅い時間だったが、まだ店は何件か開いていた。そこで酒を飲んでいる警備隊員がいる店を見つけ、テオは思い切って店に入った。

「助けてください! 王様のいる街からここまで連れて来られました!」

 賑わっていた店が一瞬にして静かになり、警備隊の若者がすぐにテオを椅子に座らせた。

 テオはアーレに言われたことを思いだした。

「王様のところのガルトナーさんって人に、子供が捕まってるって伝えてください。僕の他にもまだ捕まってるんです。早く!」

 未遂を含め、子供を誘拐する事件が続いていることは、この街の警備隊にも伝わっていた。すぐさま馬車の向かった方向へと捜索隊が出され、王城にも連絡が取られた。


 それから数時間後、道の先にある鍾乳洞の手前に止まっていた荷馬車から中へ運び込まれようとしていた子供が救い出され、犯人も逮捕された。

 既に中にいた子供も無事保護された。

 六人の子供は全員眠らされてはいたが、薬が切れた者から順に目を覚ました。荷馬車には怪しげな薬も積み込まれていたが、まだ封は開いておらず、幸いまだ誰にも使われていなかった。


 犯人達は、十二年前に誘拐殺人事件を起こした「大地の使徒」の残党と、その協力者だった。

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