第21話 地獄絵図

 俺と影山で城の中をひた走る。

 途中に衛兵はおらず、少し違和感を覚える。


 ちょうど三階にたどり着いたとき、横から槍がつきだされる。

 もうコンマ一秒でも遅れていたら、俺の脇腹には穴が開いていただろう。

 奇襲に失敗したが、それも想定内という事か、それともこれが目的か、通路の部屋からゾロゾロと兵士が出てくる。

 

 ここで総力戦を行うつもりだろうか。


 俺は手のひらに力をこめ魔法で相手の足を封じる。


 全員は不可能だったが、前線の足止めは成功だ。


「翔風くん、どうする?」


「そうだな……」


 このままでは俺らも前には進めないため、方法を隠夕と考える。


 その間に、貧民街の人たちは突撃していき、衛兵たちの鮮血が飛び散る。


「おい!どうした立ち止まって、早くしねぇと逃げられるぞ!」


 俺はその目の前の地獄絵図に足がすくんだ。多分ほかのクラスメイト達もそんな感じだろう。

 

 たった一人を除いて……


「影山⁉」


「早く行くよ!」


 なんであいつはこの光景を前にしてあんな力のある目ができるのか……

 俺には分からなかった、でも、あいつが正しいのは嫌ほどわかった。


 あいつは何のためらいもなく、ただ自分が正しいという目をしたまま、衛兵を切り刻んでいた。


 俺は吐き気を催しながらもクラスメイトを引き連れ、死体が転がる廊下を走り抜けた。


 ◇  ◇  ◇


 いろいろありながらも、王のいるであろう大広間へやってきた、先をいっていた影山は返り血に染まっており、目が濁っていた。


――ここが最終決戦だ……


 この先には多分あの四大武官がいる。俺は覚悟を決め、あの大きな扉を蹴とばすかのように開くと、殺気に満ちた魔法が頭目掛けて飛んでくる。


「伏せろ!」


 俺はそう叫び、間一髪で回避する。


 クラスメイトの一人が魔法で防壁を作って守ってくれていた。


 なかには明らかに大きい槍を持っている赤髪の若者とあの時の教官、この二人は四大武官なのだろう。

 

――いない…王がいない……


 あせっているうちに衛兵たちが飛び出してくる、俺は少し遅れ、完全に隙だらけだった、衛兵の槍先が俺の目の前に迫る。

 俺は痛みを覚悟したが


 槍先が地面に落ちる音とともに、影山が俺の脇から飛び出ていった。


 あいつは躊躇もなく、ただ哀れんだような目で衛兵の首筋を切って突き進む


「お、おい!影山!」


「早く行くぞ!翔風!」


 俺はあいつの姿に呆気にとられ固まっていたが、貧民街の人たちはすでに突撃を始めている。

 その中で俺とクラスメイトだけが立ち止まっていたことに気付かされる。


 いつの間にか目の前にはエドワードまでの細い細い一本の道筋ができていた。


 俺はグッと地面をけり、飛び出す。

 横目で影山があの槍の人と戦っているのが見える。


「うぉぉぉ!」


 咆哮と共に剣を抜き、エドワードに切りかかる。それを相手はたやすくはじき返す。


 そこからは甲高い金属音が繰り返される。

 外から見れば互角に見えるが、本人である俺からしたらこっちが圧倒的に不利である。


 そこから数回剣をぶつけた頃、一瞬の隙を突かれ、俺の左肩から大量の血が吹きでる。

 今まで受けたことの無いほどの痛みに、自然と涙が目からこぼれる。

 しかし、ここであきらめるわけにはいかないのだ、こいつを倒して、早く王を捕まえなければならない。


 俺はここでスキル『不屈』を発動させる。

 体が軽くなるのは分かるが痛みは消えないし、視界は歪んでいる

 早く倒しきってしまわないと、多分、俺は倒れてしまうだろう。


 痛みに耐え、自分のすべての力を振り絞って剣を両手で上に振りかぶる。

 そして、相手の腕を目掛けて振り下ろす、相手も焦ったようだったが、大剣で受けきられ、俺の剣が折れる。

 俺は今度こそ死を覚悟する。


――ごめん、みんな……


 相手は剣を振りかぶり、俺に振り下ろしてくる。

 しかし、それは俺に届かなかった。

 彼の剣は彼の右腕と共に宙を舞っており、槍の先が奥の壁に突き刺さる


「諦めんなよ!ショウ!」


 そう言いながら、影山が駆け寄ってくる

 俺は地面に落ちていた剣を拾い上げ、相手に切りかかる。すでに最後の力もなく、手でつかまれとめられる。

 お互いに満身創痍、すでにボロボロだ、少年漫画で行けばお互いに認め合って……というのもあるかもしれないが、ここは戦場だ。

 もう一度力を込め振り切ろうとする、相手もそれを全力で阻止する。


 先に体力が尽きた方の負け、という戦いになるとは思ったが、その前に相手の首から血が噴き出し、地面に倒れる


「大丈夫?翔風くん」


 『隠密』を使っていたのだろうか、姿を見せた影山が俺に手を差し出す。

 周りを眺めると、あの槍の人の死体や、衛兵の死体……クラスメイトが倒れていた……俺はそこに手を伸ばしたが、その前にプツリと意識の糸が切れた


 

 

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