第20話 “元”四大武官筆頭
『断罪』――そのスキルには隠れた効果がある
それは相手への憎悪や怒りなども自分のステータス強化の対象になることだ。
今回のスキルの発動はそれによるものだ
目の前に立つヘラヘラと、それでいて嗜虐的な目をしたクソ野郎――クリスティへの憎悪はとどまることを知らない
私は距離を詰めようと近付いていくが、後ろへ下がりながら魔法を放ってくる。
私のスキルに時間制限があるかどうかわからないので、早めにケリをつけたい。それに上の状況も不安だ。
だが、奴は時間を稼ぐかのように、私をあざ笑うかのように、逃げ続ける。
私の魔法もすべてかき消される、長期戦にしようとすれば確実に勝てるのだろうが、生憎時間との勝負でもある
私も魔法を放っていて、当たるには当たるが効いているようには見れない。
相手は悔しいが確かにこの国で一番の魔術師だ、耐性はついているだろう
――やはり、物理攻撃しかないか…
一方私の方は耐性はあるが、彼女の魔法を受けきれるほどではない
「どうしたの?アリスちゃん、さっきまでの威勢はどこに行ったの?」
「うるさい!お前は……私の家族を、家族を…」
「それは君のせいでしょ」
「お前が嵌めたんだろ!」
私は足に力を籠め、前に飛ぶように出ていく。
「へー、君はどっちを選ぶのかな」
そう言われ、私は彼女の魔法の向けられている方向に目を向ける。
「彩!」
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目の前に迫る数十発の魔法、少しでも当たれば致命傷だ
完全に腰が引けていて、私は死を覚悟する
――ごめん、みんな……
目の前まで迫った魔法に目を閉じる
大きな爆発音と爆風の後、私は目を開く
「ハ、ハボックさん?」
「大丈夫か…?」
私をかばってくれたようで、背中はやけどの跡や、何かに刺されたような跡ができていた。
「それより、ハボックさん!」
「私はいい、先に逃げてくれ、その分の時間は流石に持つだろう……」
ぐっと立ち上がった彼女は、そう強く言っていたが、すでに満身創痍である。
――このままじゃ……絶対に……
今までの自分の甘い考えを恨む。
私はパニックになりかけている心を少しづつ落ち着かせる、立ち上がる足が震える、剣を持つその腕が震える。
その震えを抑え
「私も、戦います!」
ハボックさんは私にニカッと笑い
「じゃあ、行くぞ」
「はい!」
「『断罪』」
「『身体強化』」
私とハボックさんは前に飛ぶ、魔法が何十発も飛んでくるがすべてがゆっくりに見える、タイミングを合わせて一度で全てを切り裂き、空中で大爆発が起こる
その間にハボックさんは私の遙か先へ行く、すでに相手、クリスティの間近に近付いている
短剣の先がクリスティに迫る。それを氷の魔法で防がれる、ここまではさっきと同じだ、だが、今回は私が追撃を入れる。
氷の壁を砕いたハボックさんに続けて、私は彼女に斬りかかる
「『急所突き』!」
またもや魔法で防がれ、私の剣が折れる、しかし、彼女の顔から余裕は消えていた
「一瞬ヒヤッとしたけど、ここまで……」
「まだ喋る余裕はあるみたいだな」
そういって、ハボックさんが振るった短剣がクリスティの胸元を深く切り裂く。
これで決着はついただろう
クリスティの口から血と言葉が吐き出される
「あーあ、負けちゃったかぁ、でも、死なばもろともだよ」
消え入りそうな声でクリスティが言った直後、床が輝く、喰らってはダメなのは分かっているが、すでに私は限界を越している、
――に、逃げなきゃ……
そう自分に言い聞かせても体が動かない
ハボックさんも遠くで倒れていたが、最後の踏ん張りを見せ、近くに刺さっていた私の折れた剣先をクリスティの首元めがけて投げ、クリスティの首元から血が吹き出す。
その瞬間、床の光は消えた、彼女は息絶えたようだ
私とハボックさんはお互いに支え合いながら壁にもたれかかった
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