第15話 影山の戦い

身体強化ブースト


 若花が後方で全員にバフをかける、人数が人数なのでそこまで強いものではないらしいが、「おぉ」と感嘆の声が周りから聞こえる。


 王城へいくためには三本の大きな道があるらしく、その三本の道を三組に分かれて攻めていくことになった。

 どこかの道でも開けておくと挟み撃ちからの壊滅という絶望的な状況が見えてきてしまう。


 とりあえず、ショウ、彩、影山とハボックさんという分け方でショウを主力として戦うことになった。ハボックさんのところは貧民街の人々中心で、彩とショウはクラスメート中心である。


――――――――――


 皆が進んでから数分後、俺と若花、あと何人かの支援系のスキル持ちで貧民街にて、後方からの支援にまわっていた。貧民街の老人や子供、戦うことを望まなかった人たちにも手伝ってもらいつつだが。

 支援系のスキル持ちと言っても、一般的な衛兵よりもステータスは高いし、攻撃もできないわけではないので、彼らのことを守ることも俺らの役目だ。

 

 全員無事でいてほしいと思うのは、日本で平和慣れしていた俺の無理な願いなのだろうか。


「無事でいてほしいね、みんな」


 若花がそう呟く、べつに俺だけの願いではなかったようだ。


 ===========


「影山、気分はどうだ?」


「めちゃくちゃ怖いです、だけど気合はあります」


 城へ侵攻しながら、ハボックさんは僕に心情を聞かれ、答えると彼女は少し口角をあげて、僕にアドバイスをくれた。



「さぁ、戦闘開始だ」


 目の前には数百人の兵士と、それを束ねるいかにも百戦錬磨といったような隊長。

 相手も僕らのことを確認したらしく、雄たけびをあげながら走ってくる。魔法も放たれているようで、火の玉や雷が放物線を描いている。


火壁ファイヤウォール


 ハボックさんがそう唱えると僕らの上に火の大きな壁のようなものが現れて、相手側の魔法をすべて防ぐ。


「いけ!影山、隊長を狙え」


「はい!」


 僕は皆に紛れ隠密を発動させる。幸い相手はそれに気付いていないようだ。というか、そもそも僕の存在を知らないのだろう。


 魔法の面ではこちら側に分があると早々に察した相手の隊長は突撃と命令した。混戦の中では魔法を使えないし、接近戦なら日々訓練している軍隊側に分があると踏んでのことだろう。

 正直、それで間違いがない。だから僕が隊長を戦闘不能にしなければならないのだろう。


 今、彼は指揮に集中している、倒すなら今だ。


 僕は彼の背後に近付き、こいつの背中に短刀(鞘付き)を握る力が強くなる。そして後頭部目掛けて振り下ろそうとしたのだが、気付かれてしまった。

 振り下ろした短刀が彼の剣によってはじき返される。

 

 そのまま僕の胴体を狙って剣が振られる。僕はそれを寸でのところでかわし一度距離を取る。さっきまで気絶させるために短刀に『重量増加』をかけていたが、こうなってしまったら仕方がない。

 光を反射させながら刀身が姿を現す。その時同時に『攻撃力上昇』のバフをかける。

 一度ハボックさんの方を見たのだが、彼女は「やってみろ」と目で伝えてきた。


 たぶん彼女は僕のことを信じてくれているのだろう、そして僕なら彼に勝てると。ならその信頼には応えなければいけないな


 僕はつま先に力をこめ、相手に近付く。相手はどっしりと構えている。まずは肩のあたりを狙って振り下ろしてみたのだが、そんなのではダメなようで、いとも簡単にふせがれてしまう。


 次は相手の攻撃だ、僕の頭上を狙って剣をふるう、それを短刀で止めたのだが、重い、今は止められているが結構ギリギリだ。


 そこからは少しづつ僕が圧される形になっている。何とかしなければと思うが防ぐので精いっぱいだ。

 

 両陣営のぶつかり合いの方は、ハボックさんが相手をバタバタと切り倒していく。あの人、魔法だけじゃなくて接近戦もできるんだな。

 よく見ると彼女の両手にある短刀は相当年季が入っている。


 それよりも今は自分のことだ、防いでいるだけだとジリ貧で、いずれ負ける。ハボックさんもこっちにかまうつもりもないようで、どんどん突撃していってる。


 ハボックさんの戦い方まねできないかな?

 そう思い彼女の動きを再現しようと頭の中でイメージする。

 どこが僕と違うのか、なぜ彼女は攻撃を受けてすぐに反撃できるのか。


 攻撃を防ぎながら、打開策を考える。そして一つの大きな違いを見つけた。それを早速実践に移す。


 相手が振り下ろしてきた剣を僕は少し体を横にずらし、攻撃を受け流す。彼の剣は地面にひびを入れた。

 

 そう、彼女と俺の違いは攻撃の受け方だ。僕は真正面から受けていたが、ハボックさんは力を逃がすように、受け流すような攻撃の受け方だ。そうすれば、すぐに反撃に移れることだ。


 彼にできた隙を見た僕は、全力で短刀を振った。その剣筋は彼の腹の上部にまっすぐの赤い線を描く。この反撃に彼はうろたえる、僕はそれに追撃を加える。


 あとから考えると、この時は必死すぎて完全に冷静さを失っていた。というか自分じゃなくなっていた。


 気が付けば彼は地面に倒れ、真っ赤な血で地面を染めていた。


 相手側の兵士はそれを見て戦意喪失したようで、武器を捨てて投降するか城の方へ逃げていった。

 こちら側は勝利の雄たけびが上がっていた。


 だけど、僕はただ人を殺してしまったという事実と、それが普通どころか時には称賛されるものであるということに怯えていた。

 体の底から冷えていく感覚、気持ち悪さと自己嫌悪が全身を蝕んでいた。









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