第6話 あんなこと(1)

『もういっそのこと自殺しちゃおうかな、、、、』

 

 そう思ってしまったのは僕が高校一年のときだった。

 だけど、僕は今生きていて、異世界にいる。


 それは彼らのおかげだろう、、、


 ――――――――――

 ――――――――――


「おい、カゲ、お前の妹に俺のこと紹介しろよ」


 カゲとは僕のことだ。彼らは今日も脅すような口調で話しかけてきた。

 今日は機嫌がいつもより悪かったのだろう。

 僕は影山隠夕、自分でもわかるほど陰キャな高一だ。


「い、いやだよ!」


 これがこの時の俺ができた精一杯の否定だ。


「カゲのくせに生意気だな」


 その言葉には圧がこれでもかというほどかかっていた、

 だが流石に家族に迷惑をかけるわけにはいけないと思っていたので、ここだけはOKしてはいけなかった。


「ごめんなさい、本当に妹だけは勘弁してください」


 しかし、そこに真っ向から立ち向かう力などあったものではなく、ただただほかのことで機嫌を取るしかなかった。


「じゃあ、なんか渡すもの、あるよね?」

 こいつらの元の目的はこっちだったのだろう、僕はいつも通り財布を取り出した。


 そう、僕はいじめられていたんだ。

 いじめが始まって間もないころに一度先生に相談してみたが、相手にされず、逆に


「そんなことを言って、あいつらのイメージを落とそうとしているだけだろ!」

 と決めつけられ、叱られて、僕の話など一言も聞いてくれなかった。


 挙句に本人たちにバレてしまい

「残念だったね~、カ~ゲくん」


「うわ、ほんとに言いやがったのかよ」


「まぁ、俺らは『優等生』だからね~、ド~ンマ~イ」


 僕はこの後これまでよりもボコボコにされたので誰かに相談するのが怖くなった。


 ここからだった、彼らのいじめがエスカレートしたのは。




 僕は彼らが帰ったのを見計らって、学校を出た。


 そして、学校から少し離れたボロアパートに入った。


「ただいま、花」


「おかえり、お兄ちゃん。お母さんはちょっとパート長引くって。」


「そうなんだ、、あっ、ごめん花帰ってきてすぐだけどいかなきゃ」


「お兄ちゃん、最近どうしたの?バイト増やしたみたいだけど」


「何でもないよ」


 あいつらに金を奪われるとはいえるわけもなく、もし言ったとしたら僕を守るために正義感の強い花が犠牲になってしまうだろう。


 僕は家の玄関のドアを閉め、さっき止めたばかりの自転車に乗った。


 10月の肌寒い空気の中で、ギコギコと自転車が悲鳴を上げている、この自転車も貰い物だったはずだ。


 父は僕が小四のときに早死にしてしまい、ここまで母が女手一つで僕たち二人を育ててくれた、

 経済的にはカツカツであるが三人で暮らしていけてるだけで幸せだった。

 

 中学を卒業するころ、僕も中卒で働くといったのだが、気にせず進学しなさいと、強い口調で言われたので、高校に通うことになったのだが、

 これ以上母の負担を増やすわけにもいかず、僕はバイトに出ることを決めた。

 母は別にしなくていいと言ってくれたが、僕は引かず、結局バイトを一つ入れたのだが、あいつらにカツアゲされるせいでバイト代は減っていく一方だった、

 

 母に内緒でバイトを増やさなければ到底やっていけない。



 そんな毎日が続いていたある日


 僕はあいつらに連れられちょっと高そうなレストランに来ていた、あいつらの目的は僕に全部おごらせることらしく、遠慮えんりょなく高いものを頼みまくっていた。


 僕はできるだけ安く済ませるため、一番値が張らないサラダを頼んだ。


 僕は疲れが響いているのかちょっと吐き気がしたため、トイレへと向かった。


 少しすっきりした後、顔を洗うために鏡を見た、そこにはやつれた自分の顔が映し出されていた、


『もう、いっそのこと自殺しちゃおうかな』


 そう思った僕の目からは涙が流れだしていた


 その時だった


「大丈夫ですか?」

 横から見知らぬ声がかかった、

 この時の僕はどうかしていたようで、初対面の彼に今までのこと全部打ち明けていた。


「そうか、今までよく耐えたな」

 そう言った彼はスマホに目線を落としていて、何か操作をしていた。


 そして目線を俺のほうに向け、

「よし、じゃあ逃げようか」


「え?」


 僕は訳が分からなかった。


「つらいんだろ、もう嫌なんだろ、じゃあ、逃げようぜ」


「え?でもそうしたらもっといじめられるんですけど」


「そうはさせねぇよ、ほら行くぞ」


 彼がそう言うと、僕は彼に連れられあいつらの前も、会計も通らずに店の外に出てそのまま結構な距離を走った、

 その時の彼の背中には強い希望が見えた気がした。


 そして、店から離れた公園のベンチに座った


「ふぅ、久々に長い距離走ったわ、疲れた~」


 彼は息を切らしながらスマホを取り出しで耳に当てた


「おーい、ショウ、ちゃんとやってくれたか?」


 誰かと電話しているようで、何かすることがあったようだ。


「じゃあ、あの公園な」


 彼が電話を切ったと同時に僕に話しかけてきた


「で、そうだった?自分をいじめてたやつから逃げる感覚は」


「滅茶苦茶、怖かったんですけど、『逃げれるんだ』って思いました。」


「そうか」


 少しの沈黙の間が広がっていたが後ろからの声により沈黙は破られた、僕はあいつらが追い付いてきたんじゃと思ってのだが、違ったようで


「おまえなぁ、急にもほどがあるわ」


 そこには彼の友達であろう人がいた、電話での内容から察するに『ショウさん』だろう。


「追いついたか、ショウ、マジですまん」

 名前は『ショウ』であっていたようだ。


「あの、、何かしたのでしょうか?」


「まぁ、そうだな」

 彼らは顔を合わせて笑って、すぐに僕の顔のほうに向けてきた。


「とりあえず、何したか伝えるか」


 僕は何のことだか分らなかった







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