第2話 1人目の主人

店の中の一室にて

TANAKAに渡された鑑定結果を見た。

(種族に(推定)ってなんだよ…人じゃねえのか?)

人族と人族の間に生まれたと思っていたのに、人族ではない可能性があるとでた。


様々な種族が混在しているこの世界で、先祖返り的なことが起きてもおかしくはない。


つまり、俺は特別な存在…かもしれない。

自分探しは、主人が見つかってからにしよう。

ともあれ、あれから半年も経った。

それくらいいればここがどこかも分かる。

大陸東の大国 コンセンテス。

その王都ディー

3つの王位継承権を持つ家と9つの大貴族で構成された王国議会により、政がなされる。

様々な種族が混在する他種族国家でもある。


ちなみに、俺の売られる奴隷競売所はこの王都の東側の中心地にある。

[TANAKA SHOP]という大規模商業施設である。

非常に広く、合法・非合法問わず何でもある。

非合法な物は隠れているが、売っているらしい。



国内最高の商業施設だそうな。

なので、品揃えは国内最高だという。

価値の高い物も多いが、曰く付きの怪しい物も多くあんだとか。

見た事はないが、呪いのアイテムだとか、伝説の武具レベルの武器だとかもあるんだとか。

そんな場所なので、来る客も多種多様。


多種多様な民族の住むこの国の縮図であると言える。


その中でも最も利用者が多い施設の1つが冒険者ギルドである。

ーー冒険者ギルドーー


冒険者ギルドと呼ばれているが、冒険者関連だけでなく、一般の様々な手続きも行える。

いわゆる役所の役割もある。

冒険者ギルド


[冒険者用窓口にて]

ここではさまざまな依頼を張り出している。

また、パーティーメンバーの募集や素材の換金も行える。


近くには酒場があり、そこで冒険者達が集まる。

『そろそろ入れるべきかな』


窓口に併設された酒場の隅で私は考えていた。

1人旅もそろそろ限界ではないかと。荷物持ちでも肉盾でも召使でもいるのではないかと。

いや…まあ、肉盾は冗談として、1人だと何かと面倒が多いのだ。特に女1人だと。


変な奴に絡まれたり、ナンパされたり、馬鹿にされたりするので、かなり面倒くさい。


かといって、その辺の男冒険者だと、勘違いして襲ってきたり、金関係で揉めるのは目に見えている。

それに誰かの下に付く気もない。




『どうしたものか…それなりの能力があって、襲ってくる心配もなくて、従順で簡単に壊れない奴がいいな。』


と、考えていると、となりの席から聞こえてきた。

『やっぱ、奴隷買おうぜ。犯罪奴隷なら好きにしても大丈夫だし、安い。普通奴隷だと能力はあるけど、制約多いし高い。』

と軽薄そうな男が言うと、向かいの席の男は

『たしかに、犯罪奴隷なら良いな。でも、娼館に売られてるぞ?面の良いのは。』

『バッカ!お前そんなもんオークションで競り落とせば良いんだよ。』

と下衆い顔をしながら話していた。


色々と女として眉を顰める話題ではあるが、犯罪者は自業自得であるし、その辺も奴隷所と裁判所が判断している事だ。


『奴隷か…良いかもしれないわね。』

普通奴隷は借金の形や捕虜になった貴族や兵士がなっているので、人権もそれなりに保証される。

奴隷なら、人権など無い!!なんて言う事はない。

奴隷という名前であるが、お手伝いさんとか派遣労働者とかに近い。

また、元いた国が滅んだ場合などで住む国が消えたなんて事がある。そんな者達が自立していける様にするために、普通奴隷という名で置いている。

犯罪者や悪質な人攫いに遭った場合は、文字通り人権のない家畜と同等の扱いを受ける。なんなら家畜以下という劣悪な環境に放り込まれる事もあるのだ。


能力は値段によるんだとか。


予算はそこそこある。奴隷管理所に行けば希望通りの奴が見つかるかもしれない。


しかし…

最近、妙な気配がする。半年前くらいからかな。

と考えているうちに、奴隷管理所についた。

他の店と余り外観は変わらないが、中に入ると

、ガランとしており、窓口らしきモノがあるだけで棚には商品の様なモノは一切ない。  

窓口に行くと、端末が自動で喋り始めた。

これは魔導具であるが、使用者には魔力負担がない。

『いらっしゃいませ。どの様な御用件でしょうか?』

『普通奴隷が欲しい。』

と応えると

『かしこまりました。では、希望条件をこの用紙にご記入ください。』

という返答とともに用紙が出てきたので、

希望を記入した。

ちなみに記入内容は

位階3以下

基本的な読み書きができる。

健康

種族指定無し


仮契約あり

とした。スキル関連は最低限これは欲しい。

自分の身を守れて、探索や普段の生活にも便利であると良い。


『1人ずつ見ますか?それとも5人ずつ見ますか?』


ひとまず、条件に合う者なら見てみるか。

『1人ずつ見るわ。時間はあるし。』

なんとなく1人ずつ見ることにした。

謁見室は、仰々しい名前のわりに普通の木のテーブルとソファーと棚があり、一般的な待合室と同様である。

ソファーに座りながら待っていると、妙な感覚が体の中に生まれた。

ズズズ…ぐぐ…

体の中から何かが流れ出るような感覚があり、心も何故だか晴れやかな気分になっている。


(体が軽い。余分なモノが抜けていくようだ。)

不思議な感覚を、憶えながら部屋で待つと…


ーーTANAKA Shopーー

いつものように、店主のノルマをこなしていた。

その店主が現れて、

『君は主人候補の希望条件に該当しました。』

の声とともに、俺は連れて行かれた。


(ついに買われるのか…どんな奴なんだろうか。

常識はあるはずだ…あってほしいな…いや、それよりも、できる奴か否かだな。)

生きていくために、力をつける。


そのために、能力の高い者の庇護下にはいる。


凡人で家族もいなくなり行くあてもない。

そんな奴が選べる道は、野垂れ死コースか誰かの下につくかだ。


ちなみに、

この店には、奴隷管理所がある。

ここでは、奴隷に関する様々な手続きができる。

1番多いのは、奴隷と主人の契約だ。

これは、主に普通奴隷とのものになる。

1.主人となる者が、どんな奴隷が欲しいかを出す。

2.要望に合う奴隷を並べ、希望人数分選ぶ。

3.奴隷との主従契約について条件を話し合う。



という具合だ。


奴隷の方から主人は基本的に選べない。

どんなにヤバそうな主人に選ばれたとしても、それを受け入れるしかない。 


謁見室に向かう中で、部屋に近づくにつれて、体の異変に気がついた。

ズズ…ズズ…グリュ!

(!?!?)

頭の中で突然、音のようなモノが響いた。

同時に、変に胸の奥がモヤモヤする。

何か得体の知れないモノが流れ込んでくるようだった。


(気持ち悪い。気持ち悪い!気持ち悪い!!)

黒い何かが流れ込んでくる。

(なんだ…なんなんだ!?悍ましくも心地よい。痛いのに気持ちがよい。気持ち悪いのに満たされる。)

己の中にあるナニカが、その黒いモノを受け入れたいと叫んでいる。


(なんだこれ!?あの部屋に何がいる!?)



気が狂いそうな精神状態にも関わらず、体はそこに勝手に向かう。


まるでその先にいるモノを求める様だ。

自分の体なのに、全く制御出来ない。

扉を開けると、そこには黒髪の美女が座っていた。

長く美しい髪、透き通る様な白い肌、鋼鉄の様な銀の目をした女性である。

黒い羽織の様な服装からでも分かる凄まじいスタイル

(すげえ美人。でも…恐ろしい。なぜだろう)

見惚れながらも得体の知れない何かを感じていた。

店主は『この男が、あなたの希望に合致したうちの1人であるカミヤ・タカシです。』

と紹介すると、女性は

『彼で構わない。契約を頼む』

…あっさりと決まった。

これ程の超絶美女に選ばれるなんて…期待しても良いのだろうか!!!

と鼻の下を伸ばしていたが、先の妙な感覚のせいですぐに冷静になった。


『隣の部屋に行き契約の内容を決めてください』

と言われたので、隣の部屋に行った。


タカシは、自分の中に生まれた違和感のことは忘れてしまった。


『普通奴隷は人間が認められているので、主となる者と奴隷となる者でしっかりと話し合い、双方の合意の下に契約となります。

この契約内容については、紹介所の者が決める事はありません。』

扉を閉める前に店主がそう言い残していた。


隣の部屋に行き、お互いの自己紹介から始まった。

『私の名はノワル・ソトス。お前の主人となる女よ。』

と堂々と名乗った。

『俺の名前は、先ほど紹介にあった通りカミヤ・タカシです。』


『ああ。敬語は要らないよ。砕けた方が話しやすい。ノワルと呼べんでくれ。君をタカシと呼ぶから。』

と、こちらをじっと見つめながらノワルは言った。

『ところで…君は男と女どちらが好きだい?私はどちらもイケるが、女の方が好みだ。』

突然、両刀だとカミングアウトしてきた。


『なんだいきなり!』

急に性癖を晒してきたので驚いた。

『私を知る上で、まずはと思ってね。さあ君はどうなんだ?』

『女が好きです…』

蚊の鳴く様な声で言うと


『恥ずかしいがる事じゃない。まずはお互いを知る事が大切よ。それに女が好きなのは男として一般的な事だしね。』

と、こちらの探るような視線に対して、怒る様子もなく自然に答えた。

『そ。それはそうか。』

『私の愛人に手を出したら、潰すけどね。ちなみに愛人は全員女だ。』

『出さねえよ!というか、愛人がいるのかよ!』

『当たり前だ。冒険者やってるなら普通の事よ!そして私が主人である以上、わたし自身にも悪意もって何かしようとすれば…わかるな?』

悪意をもって何かしようとすれば、動かなくなる上に、激痛に襲われ、手足が千切れ最後は死ぬ。


『分かってるっての。手足が千切れるのはごめんだし。』

『なんだ?下剋上だ!とか言ってむかって来ないのか?』

『やらねえよ!勝てない勝負はしない主義なんだよ。』

『まあ、そうよね。位階もレベルも私の方が上な訳だし、奴隷が主人に対して害を与えられないようになってるから。所であなたの位階とレベルは?』

自分より、上の位階の存在を奴隷とする事は不可能である。存在としての格が違うため、主従契約が成立しないのだ。

『俺の位階は2のレベル40だけど、そっちは…3かな』

と聞くと、彼女は

『位階は…3くらいね。レベルは…60くらいよ。』

契約が可能である時点で、上である事は分かっているので、気にしない事にした。

聞くのが怖かった訳ではない。

『俺に戦闘を期待しないでくれよ?』

と堂々と胸を張った。

俺は、はっきり言って弱い。


伸びたのは生産系や生活系のスキルだった。


『安心しなさい。あなたにその辺は期待していないわ。お前は戦うよりも、直すとか作る事に力を入れて欲しい。』

レベル的にもだが、位階1つの差は圧倒的であるので、役割分担としてアリだ。

というか、そうしてもらわなければ困る。

具体的には、俺が死ぬ。

『わかった。そっちはやる気はある。』

タカシは先程とは打って変わって自信ありの表情をとった。

すると

ノワルは嬉しそうに言った。

『なら頼むわね。』

『そこを評価して選んでくれたんなら、全力でやらだけだよ。』

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