第2話
(――この男は天才ハッカーなどでは無く、国際的なテロリストでも無い)
ミスターmkは判断する。
(たまたまゲームを通じて『KAC』にアクセスを通してしてしまった、単なる『はじ・おせ』プレイヤー……天文学的数字を分母に持った確率の、ありえないアンラッキー・ボーイ!)
いったいどのような条件で、直接アクセスの権限を得たと云うのだろうか?
交渉プログラムは『パターン・P-1』へ移行する。
「――私は『はじ・おせ』開発会社の
さっきまで拳銃を握っていた口が、シレッと嘘を吐く。
「本来、社外に流出してはイケない物なのです。当社としては速やかに回収したい。もちろん相応の謝罪金と賠償請求にも応じ……」
「ダメです。お帰り下さい」
「……」
少女のおしりが気になるのだろう。チラチラと画面を見上げながら、それでも対応はしてくれるようになった。
(――ふむ。今のアクセス環境を手放す気は無さそうだ。ならば『パターン・P-7』か?)
「では、貴方のPCを当社の端末に迎え入れる許可がいただきたい。貴方を外部委託の『デバッガ』、としたい」
「デバがめ?」
おしりをチラチラ見ながら彼が言う。
「……『バグフィクサー』と、しましょう……現在のPC環境は当社のサーバーにコピーされ、こちらが使用不能になった場合でも環境を復元して、再接続が可能になります」
「え? 使用不能って?」
この提案は少し興味を持ってもらえたようだ。
「電気使用量、半端ないでしょ? このアパートじゃ、いつブレーカーが落ちても不思議じゃない……PC、壊れますよ?」
「げっ!」
青白い無精ひげのボサボサ髪が、驚きの表情を振り向いた。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
――『ミスター・エムケイ』と名乗る外人さんと、正月もやっている近所の食堂へやって来た。
いつもの様にビキニとの冒険を進めていた新春早々、突然部屋へ押し入られ、なんかオッかない事を言われてしまったのだ。
ビキニが冒険を終えて宿に戻り、
「……マスター、明日また一緒に冒険しましょう。お疲れさまでした。おやすみなさい」
と、ゲームを終了した時点で、
「……外で食事でもしながら、話しをしましょう」と、いうことなった。
「――性に合わないので、単刀直入に申します。今のあなたの通信環境は大変危険です」
「き、危険……」
「少しゲームを拝見させてもらい理解しました。PCに、かなりな負荷が掛かっています。アナタは部屋の暖房を点けていないが、それは発熱対策のため?」
たしかに会社に支給してもらった最新PC は、ごうごうと音を立てて熱風を吐き出し続けていた。
「いえ、電気代が
このPCが我が家の暖房器具、と言ってよい。
「この先、外気温が暖かくなれば、熱暴走する恐れも有るでしょう。今の環境が大切なら、早めにバックアップを取っておく事をお勧めします」
「熱暴走……」
紙に書かれたメニューで壁を埋める食堂の有線放送が、『ツイスト』の『燃えろいい女』を店内に流した。
「――この『カード』をPCのスロットに差して下さい」
ミスター・エムケイが、銀色のケースに収まったPCカードを手渡してくれる。
「当社のサーバーに繋がり、自動的にバックアップがクラウド上に作成されます」
「――ビキニのPC、壊れたりしないですか?」
「だいじょうぶ、その対策のためのバックアップです」
そう言って餃子の羽根を器用に崩す。この外人さん、箸の使い方がとても上手だ。
「その代わり、わが社の端末からもアクセスの状況が分かる様になりますが、そのあたりは了承してもらいたい」
なるほど、うちのPCを端末化するというのは、そういう事か。
「貴方のゲームライフの邪魔はしませんよ。約束します」
「ゲームしている所を覗かれる、ってこと?」
「データーを収集しながら『見守る』って感じですか? まぁ、あまり変な事はしない方がイイかも? ですね」
「そ、そんな事はしませんよっ!」
慌てて俺は否定した。
ふしだらな事を考えたことは有っても、実行した事は一度たりとも、断じてない!
「ははっ! 冗談ですよ。いつもと変わらず『はじ・おせ』をプレイして下さい。それがコチラの望みでもあります」
ミスター・エムケイは、サクリと餃子を放り込み、ニヤリと意味あり気に片笑んで見せた。
「お詫びの意味と云っては何ですが、イイものが手に入る事になります」
「いいもの?」
「まぁ、『御年賀』と思って下さい。この国にはそう言った習慣が有るのでしょう?」
そしてまた器用に箸を使い、餃子の羽根を砕いて見せた。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
お正月の俳句。
『newyear
open the door
eat Gyoza』
(新年/扉を開けて/餃子食え) ミスター・エムケイ。
―――― 了。
異世界俳人ビキニ鎧ちゃん番外編(新年) ーMr. mkー ひぐらし ちまよったか @ZOOJON
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