新作短編「ニトロパンクスと新未来ソクラテス」前編

 異種混在のアイドルグループがいた。


 総勢二十五名が在籍している、大所帯のグループだ。


 異種混在……まあ珍しくもない。

 ここはエンタメの国。

 あらゆる種族があらゆるエンタメを作り、広めている国である。


 そして、新たに誕生するアイドルグループの名は『新未来ソクラテス』……


 彼女たちのデビューが、もう目前まで迫っていた。



「……はぁ、ホント、ありえないっつーの」


 アイドルでありながら、(楽屋とは言え)大きく股を広げて腕を組み、椅子の背もたれに大胆に体重をかけている天使族の少女がいた。


 背中の白い翼が特徴的な彼女の名はエルザ……、

 新未来ソクラテスのキャプテンを務めている少女である。


「なにがぁー?」


「新番組のことよ。せっかくの私たちの、デビューと同時に始まる初めての冠番組なのに、どうして去年、大会で優勝したばっかりのお笑い芸人が司会をするのよ……!

 しかもまだ若いし、私たちとそう変わらない十九歳なのよ!?」


「確か……ニトロパンクスのこと? いま一番、勢いがある芸人さんなんだし、その勢いに乗ってあたしたちも注目されるだろうって思惑があるんだと思うけどなぁー。

 いいじゃん。同年代なら話も合うし、番組がやりやすいと思うよ。それとも、エルザはおじさんが司会者の方が良かったの?」


 もふもふの尻尾を揺らしながら答えたのは、獣人族の少女だ。

 頭の上の耳とお尻の尻尾以外は普通の少女と変わらない。


 二人とも異種族と呼ばれているが、翼や尻尾が生えているだけで、ほとんど『人』とそう変わらない容姿をしている。


 アイドルに選ばれるくらいだ……顔やスタイルは飛び抜けて綺麗だったが。


「ある程度、ブレイクした後のおじさん芸人が良かったわよ……既婚者だし、業界での立ち振る舞い方も分かってるでしょ。

 こっちは全部が初めての新人なのよ? 司会も新人だったら、私たちに寄り添って進行してくれる期待なんかできないじゃない……。向こうだって売れるために必死なんだし、番組内でバチバチにやり合う可能性だってあるわけなんだから。

 どうして冠番組で、私たちが司会者とカメラの奪い合いをしないといけないわけ? グループ内でセンターを誰がやるかで揉めるなら分かるけど……」


「センターは圧倒的にエルザじゃん。グループ内で揉めることはないと思うよー?

 まあ、エルザ以外のポジションでどうなるかは分からないけど……」


「アナタは……、ヒビキはセンターに立ちたくないの?」


「あたし? いつかは立ちたいね。だけど、今センターに立ったところで、端っこにいるエルザや『人魚のリアン』や、『妖精族のフィー子』とか、注目がそっちにいっちゃうし。

 きついと思うよー?

 センターなのに、ファンの視線が周りに散っていくのが舞台上で分かるっていうのは」


「実感が込められた言い方ね」


「体験済みだからね。だからあたしは、まだセンターはいいかな。早いと思ってる。

 あたし自身のキャラが認知されてからの話だよ。エルザみたいに美人でもないし、分かりやすいキャラもないし……洗脳するみたいな魅力もないし」


「え、非難してる?」


「エルザがファンを洗脳してるとは思ってないよ。

 それくらい、熱狂させる力があるってこと。まだ正式にデビューしてないのに、グループのオフショットだけでエルザが一番人気なんだから……謙遜はしないでよー?」


「しないわよ。したらみんなに失礼でしょ。

 こっちは全員を蹴落とすつもりでアイドルやってんだから」


「蹴落とすのはもったいない、踏み台にしないと」


「……踏まれる側がよくもまあそれを言えるわよね……、蹴落とされるよりはマシだから?」


 すると、楽屋の扉が開いた。


 大所帯のアイドルグループだが、楽屋は大部屋ではない。

 いくつかに分散されている……、大部屋にすると、特定の人物としか関わることがなくなることを見越して、マネージャーが取り計らったものだ。


 二人ないし三人で一部屋を使用すれば、同部屋になったメンバーと関わらざるを得なくなるからだ。広く浅くではなく、狭く深く……、

 順番にそれぞれのメンバーを同部屋にすれば、自然と全員と面識ができると考えたのだろう。


 試した効果はあったのだ。

 実際、エルザとヒビキは初対面から、こうして素を見せるくらいまでには仲良くなっている。

 ヒビキのコミュニケーション能力の高さに依存している部分もあるが……。


「どこにいってたの、ラーラ」

「う……隣の、部屋に……」


「フィー子と仲が良いもんね。でも、この部屋にいづらいからって知り合いの部屋にいくのは反則だよー、こっちだってがまんしてエルザの面倒を見てるんだから」


「がまんして?」

「冗談だってば。言葉の綾だよー、ねー?」


 ヒビキが、両手で『頭一つ』を抱える少女に同意を求める。


 求められたラーラが、あはは、と愛想笑いと控えめな「はぃ」を返す。


 ラーラは首無し族だ。

 通称、デュラハンである。


 アイドルなんてできるのか? と誰もが危惧したが、新種の一族ではないのだ、生活を補助するための器材はあるし、首無し族も生活には慣れている。

 アイドル活動もその延長線上にある。不便であっても困ることはない。


「で、どうして戻ってきたの?」


「あの、司会の、『ニトロパンクス』さんがいらしたみたいで……

 緊急で収録をするみたいです……顔合わせ、的な?」

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