異種混在・ザ・ニトロパンクス【前編】

 かつて『芸の国』と呼ばれたこの国は、今や『エンタメの国』に合併している。

 あらゆる芸はエンタメとしてひとくくりになっているのだ。


 ゲーム、おもちゃ、映画、テレビ、演芸、話芸――

 全てが合わさったことによって国がより盛り上がるかと思えば、結局のところ、コンテンツが多くあれば分散されてしまうのが当然だった。


 映画好きは映画を見るし、ゲーム好きはゲームをするし、テレビ好きはテレビを見るし……、互いに干渉し合うことは少なく、同じ国の客を奪い合っている状況だ。


 そして、他に偏った客を振り向かせるのはなかなか難しい……。

 そのためか、狭い世界で根強いファンだけを守り切ろうとする業界が増えた。


 ゲームはゲームファンを、映画は映画ファンを、テレビはテレビファンを……、演芸は演芸ファンを。もちろん、映画好きでも演芸を見たりするし、ゲーム好きがテレビを見たりもする。

 読書家がアイドルに夢中になったっていいのだ。


 ただし、それはスポットの客でしかなく、長く楽しんでくれているわけではない……。

 やがて人は死んでいく……、新規の客を獲得するのに必死な業界は必然、客に媚びていくことになる。そういった『寄せたことによる味』は、本来の旨味が薄まっていることが多い。

 普段は見られないような過激さが売りなのに、非難の声を恐れて過激さを消してしまうなど。

 ――根強いファンを離れさせていく要因にもなってしまっている。


 まあ、離れたファンが別の業界に新規で入ったりしているので、一つの業界からすれば減った分、増えていることになる。

 循環しているのだ……あまり危機感はなかった。


 だからかもしれない。


 変革がなかった。


 エンタメの国は、それぞれの分野で進化こそしているものの、お互いに手を入れたり、組んだりすることはなかった。

 客の奪い合いである以上、安易に他業界に橋を渡せば、客が移動してしまう……、業界に閉じ込めているわけでもないのに今更な話だが。



 だからこその異物がいる。


 演芸の中の話芸の一つ、かつては漫才と呼ばれていた立ち芸。


 センターマイク一本で客から笑いを取る、二人ないし三人組の少年少女たち。


 その歴史は遂に変化を迎え、センターマイクは一本から二本へ。


 そして、彼、彼女は、コンビ(トリオ)同士で並ぶのだ――横に。


 真ん中に大きな溝でもあるかのように。



 そして戦う――その口一つで。

 発想力と話術、アドリブ力を駆使して。


 言い負かすのではなく、笑いを取る。


 客を楽しませる――それがエンタメの国なのだから。





【最終決戦・進出者のプロフィール】


 新世代お笑いコンビ・『ニトロパンクス』について。


 便宜上、ツッコミは旗道はたみちニトロである。

 十九歳、黒いハットと、黒と緑のパーカー、太めのワークパンツを穿いた青年である。

 全体的にラフな格好である。

 スーツが多い参加者の中で、唯一の私服コンビだが、本人は衣装と言っている。

 ルール上の問題はないため、衣装に関して注意はなかった。


 ボケ担当。鷹尾たかおパンク。十八歳。

 旗道とは同級生である。

 アイドルグループに入っていてもおかしくないほどの整った顔をしている。こちらもスーツではなく私服。だが、旗道ほどのラフさはなく、丈の長いコートを使ったレトロな格好である(レトロではあるが最先端ファッションでもあるため、モダンとも言えた)。


 二人の話術は、昔によく見られた漫才の形であった。

 ただし、役割としては、ボケが活きるようにレールを敷いているようなものである。


 旗道がまず話を構築し、要所で鷹尾がボケを挟んでいく。

 怒涛の勢いで喋る旗道と、呟くようにボケて、それが深々と刺さる鷹尾の一言は、従来の漫才でも充分に通用するような気もするが、時代が違うためはっきりとは分からない。


 今の漫才は二人だけの世界ではないのだ。

 たとえ独自の世界観を構築しても、横槍を入れられる。

 つまり破壊され、敵が侵略してくるのだ。


 その魔の手をどう処理して、笑いへ昇華するのか……、――漫才は変わった。

 進化というよりは別のジャンルが生まれたと言った方が正しいのかもしれない。


 しかし一気に数を減らした漫才のことを考えれば、正当進化とした方が、漫才側も浮かばれるのだろうか――。

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