第6話みゆの決心
みゆの三者面談の順番は最後だった。夕日はもう落ちて、担任の先生の向こうの空ばかりが妙に赤い。
ああ、とうとうこの日が来てしまった。
と、みゆは思った。どんなにか苦しい気持ちになるだろうとずっと思って来たが、ただ、空の赤さが胸に沁み込んで、心まで赤くなるような気がするばかりだった。
「しっかりしていて、気がきくお嬢さんですよね。この前も……」
先生は、何かたいしたことのないことで、みゆを、一応、ほめたあと、みゆに聞いた。
「どうかな、希望校は、だいたい決まったかな」
みゆは、一瞬、答えられずに黙っていた。母親が不安そうな笑みを浮かべながら、少し身を乗り出した。
「うちの子ぐらいの成績ですと、市内の高校はやはり無理でしょうか」
担任は、ちょっと困ったような顔をした。
「申しわけありません。今は、学校では偏差値とか出さないんですよ。塾の方がそういう方面は詳しいんですけど、塾には行っていないんですよね」
「この子が行きたくないって言うものですから」
同級生の多くが塾へ行っていたが、みゆは行かなかった。ばかなみゆ。せめて、少しでも勉強をしておけばよかったのに……
「まあ、いろいろ考え方はありますから……ただ、あんまり言いたくはないんだけど、ちょっと、成績、落ちてますよね。能力的には高いものがあるので、今からでも、がんばって勉強すれば、市内の高校へ入れるとは思いますよ。正直、篠高だって手が届くかもしれない」
「だいたい、市内の高校に受かるには学校の成績は何番くらいですか」
「そうですね。一〇〇番くらいで、受かるか落ちるか、半々というところだと思います」
「みゆ」と母親が振り向く。「この前、何番だったっけ」
「九八番」
少しぶっきらぼうに答えると、母親は考え込む。
「ぎりぎりねえ」
「みゆさんは、今からでも勉強すれば大丈夫だと思いますよ。もともと、頭はいいと思いますから」
頭が本当によかったらなあ、と思う。今からでも勉強すれば、少しはましになるだろうか。
「これから必死でやれば、少なくとも桜ノ宮高校には手が届くと思います。まあ、試験は運もあるので絶対という保証はできませんが」
みゆは、万が一にも高校入試で落ちたくはなかった。もしかして、フウにみゆに合わせてランクの低い学校をうけてもらったとして、自分だけ落ちたらあまりにもうしわけない。けれども、絶対に受かる高校を選べばさらにランクを下げるしかない。そうなれば、フウにはさらなる犠牲を強いることになる。抜け出せない袋小路のようだった。
夕焼けの空を見ながら、唐突にみゆは言った。
あまりもあっさりと言えたので自分でもびっくりした。
「矢津高校を受けようと思います」
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