第2話いつの間にか時が流れて

「昨日、親と喧嘩しちゃった」

 体育のあと、更衣室で着替えながら直美が話しかけてきた。髪の短い、陸上部の短距離選手として県でも上位に入る子だ。きらきらした瞳がすてきだといつも思う。

「どうしたの」

「希望校のこと。篠高、無理だって言うのに受けろって言うの。ダメなら私立に行けばいいからって」

「そうなんだ」

 直美はセーラー服をかぶりながら言う。

「無理だって言っているのに、聞かないんだから。無理して受けて、結局、私立なんて、最悪。自分の子なんだから、頭の出来だって、そんなに変わんないって、わかるだろって感じ」

「直ちゃん、頭、いいじゃん」

「全然! 私、目いっぱい勉強して、これが限界だな、ってこのごろ思う。頭の出来が違うんだなって……たとえば、木野くんなんかとはね……そう言えば、木野くんはどこ行くの? やっぱり東高?」

「たぶん、そうなると思う」

「やっぱりね。ほんと、頭、いいものね。でも、そしたら、どうするの? みゆ、入れるの? 東高」

「私が、ってこと?」

 みゆもセーラー服をかぶる。最近、少しきつい。それだけ体が大きくなっているということだ。あと四ヶ月で卒業だ。

「まさか・・・・・・、入れるわけないじゃん」

「でも、そしたらどうするの。一緒に通えなくなるんじゃない?」

「そうなるね」

「えー、それでいいわけ。それは困るよ」

「何が困るの?」

「だからさ、三中の名物が一つ消えちゃうじゃない。私は、二人が結婚するところまで想像してたのに……」

「ちょっと待ってよ。なにそれ」

「だから、いつも『素敵だな』って思ってたのに、ってこと。朝も毎日一緒、帰りも毎日一緒、どんだけ仲がいいんだよ、ってみんな思ってる。木野くんもみゆも美形だし、絵になるよね。あれだけ悪びれる様子もなく、どうどうと一緒にいられると、嫉妬というより、もう、ほのぼのしちゃうよね。あのさ……」

 直美は顔を耳元に近づけると小さな声で聞いた。

「もう、キスとかしたの?」

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