みゆララバイ
@hasumiruka
第1話高校入試という現実
「みゆちゃん。高校はどこにするの?」
フウは、突然、思い出したようにそう聞いた。
ふいに心臓を刺されたように胸がずきっとなった。
いつか、聞かれるだろうと思っていた。
その時が少しでも先になるようにと願ってきた。
でも、いつか、その問いに直面しなければならない時が来ることは知っていた。
それがとうとう今日やってきたのだった。
夕日が、街並みの向こうに沈みかけていた。高いところにある窓が明るく光って、二人の行く遊歩道に明るい光を落している。
「高校か、それが問題だよね」
みゆはフウを見る。このごろ背が伸びて、みゆは追い越されてしまった。きっともっと伸びるのだろう。顔も少し少年の顔になってきている。「髪を長くしたら美少女にしか見えない」とみんなが言う、きれいな顔立ちだった。
「もし、決まっていたら教えて。来週から面談が始まるよね。ぼくも、その高校のことを知っておかなくちゃならないから。希望する理由を聞かれて、『みゆちゃんが行くから』なんて言ったら、許してもらえないと思うんだ。だから、表向きは別の理由にしないと……もっとも、ぼくの親は、理由なんか興味ないかもしれないけど」
「フウちゃんは希望の高校とかないの?」
「ない、ない。どこでも高校なんて同じだもの。もちろん、みゆちゃんが迷ってるなら相談に乗るけど、みゆちゃんと一緒なら、商業科でも高専でも、どこでもいい。だから、ぼくのことは心配しないで、みゆちゃんの行きたいところを選んで」
フウは自分がみゆと同じ高校へ行くのは、当たり前だと思っている。それ以外の選択肢などないかのようだ。
「学力の問題もあるしね」
「それは大丈夫。ぼくはみゆちゃんと同じ学校に行けるようにと思って、勉強、がんばってきたから。県内なら、どこでも入れるよ」
そう、結局、それが問題なのだった。夕日が雲に隠れるように、みゆの心にも悲しみの影がかかる。とうにわかっていたのだけれど……。
「うん、そうだよね。フウちゃん、成績いいものね。でも、私、まだ決めかねているんだ。市内の高校か、それとも……もう少し考えさせて」
「わかった。ぼくも聞かれたら、そういうよ。でも、決まったら教えてね」
「もちろん」
フウとは幼稚園以前からのつきあいだ。弱虫だったフウは、小さいころからみゆと一緒にいたがった。みゆも、手間がかかっても、フウの面倒をみるのが好きだった。自転車の乗り方も教えた。水泳も教えた。小学校のころ、いじめられて泣いていたフウの両肩を抱きながら言ったことがある。
「大丈夫だよ。私がずっといつまでも一緒にいてあげる。守ってあげるよ」
「ほんとに?」
「ほんとうだよ」
しがみついて泣きじゃくるフウの両肩を抱きながら、みゆは本気でそう言った。
そのまま、たくさんの時が流れて、中学三年生の今になっても、同じ高校に行くのは当然のことだと、フウは思っていた。みゆも、そう思っていた。ちょっと前までは……
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