40サプライズプレゼント

 夕食時にクリスさんと弟さんから誕生日プレゼントをもらった。


「オリーブちゃん、誕生日おめでとう」

「オーカー侯爵令嬢、お誕生日おめでとうございます」

「え? え? えっ!?」


 驚いて二人とプレゼントの間で視線を行き来させていると、クリスさんがにやついて教えてくれる。


「父上からあなた宛の日付指定郵便があるって聞いて、つついたら誕生日だっていうじゃない。あなたのことだから今日になるまで忘れていたんでしょう」

「当たりです。いつもは誕生日パーティーの準備が始まると、そろそろだと思い出すんですが、今年はなかったので……」

「だいぶあなたのことがわかってきたわ。オリーブちゃん検定初級を合格できそう」

「姉さん、検定なんて失礼ですよ」

「もののたとえよ、たとえ」


 上級にはどんな問題が出るのか聞くのも恐ろしいのでやめておこう。

 この姉弟は顔を合わせるたびににぎやかで楽しそうだ。こちらにも笑顔が伝播でんぱするので私も楽しくなってしまう。

 プレゼントの小さな箱を開けると、ヘアクリップが行儀よく収まっていた。白い素材に水色のラメがきらきら光っている。


「ぼくと姉さんの二人で選びました。気に入っていただけたら幸いです」

「あら~? あたしは助言しただけで、選んだのはトーパでしょう?」

「別にそこまで言わなくてもいいでしょう……」

「女の子は贈り物の物語に感動するのよ。色だって王都に帰っても忘れないよう、あたしたちの髪に似ている色を選んだわ」

「言えませんよ、そんなこと」


 姉弟の秘密会議も目の前でされているので筒抜けである。

 ヘアクリップを箱から出して右耳の上あたりにつけてみた。近くに鏡がなくても、二人が選んでくれたのだから似合っているはずという自信があった。


「二人ともどうですか? 似合いますか?」

「もちろんだわ!」

「……とてもお似合いです」


 即答してくれたのはクリスさんで、弟さんは顔を真っ赤にさせて恥ずかしそうだ。

 女の子をほめるのが恥ずかしいのか、姉の前だから恥ずかしいのか、両方かもしれない。


「トーパってば女性に贈り物なんて初めてじゃないでしょうに。真っ赤になっちゃって」

「うるさい。あれは領地のためだから賄賂わいろ


 想像通りクリスさんが弟さんをひやかしている。

 いつまでもこのやり取りを眺めたい気持ちにふたをして、運命の日が来るのを刻々と待った。




 魔力吸収魔導具の制作は順調だった。

 手で握ると魔力をためられる魔石を、周囲の魔力を強制的に吸収するように改造した。それだけだと味方の魔力も自動的に吸われてしまうので、結界魔術で覆い、魔術をとくと吸い始める仕組みだ。結界魔術で再度魔石を覆うと中断もできる。


 完成品の姿がみえてきたので、明日から研究所に通わなくても問題ないだろう。

 研究費の概算もはっきりしてきたのでクリスさんの弟さんもほっとしていた。


 魔導具の開発が一段落し、魔獣討伐班の帰還を待ちながら領主の館の防御強化に努める。

 敷地内に結界石を設置したり、悪意ある者の行動を補足しようと『大地の根』を動かしたり。

 知能のない獣相手であれば鉄線に電気を通したいところだが、領地民がひっかかる可能性もあるので断念した。


「空き家に人の気配があるとの報告があった。相手は山賊かならず者か、それ以外か……ううむ」

「狙われる可能性が高いのはこの館だと思います。領主の首をとれば民なんて手中に収めたようなものです」


 狙われるならば騎士団不在の今だと領主を説き伏せ、ランプブラック卿とともにこそこそ準備していく。

 迎撃用の武器と魔道具も屋内外に設置しておく。たいていは使用されずにほこりをかぶっていたものなので、緊急時に仕えるよう準備しておく。


 討伐班から依頼があれば、日帰りで魔獣討伐に同行する。

 氷河での戦いでは氷が割れると湖に落ちてしまうため、落下防止のために結界魔術を発動した。

 切り込み隊長であるクリスさんが崖から落ちそうになったときは肝を冷やした。結界魔術で足場を作り、安全な場所に退避させた。彼女の無事により精神的な動揺もなく、討伐を終えた。

 私が結界魔術で作ったオレンジ色の階段を、クリスさんは登ってきた。


「命を救われたわね。ありがとうの一言では感謝してもしきれないわ」

「いえいえ、守るのが結界魔術師のお仕事ですから!」

「オリーブちゃんは謙虚ね。父上に特別報酬を相談しようかしら。……うちの子になる気はないのよね?」

「ありません!」


 私が平民ならば浮足立つ話かもしれないが、私は侯爵令嬢で彼女は伯爵令嬢だ。ホリゾン伯爵家の人となりが好ましくても、家族になるかどうかは話が別だ。


「結界魔術師育成の相談にはのるつもりですが、私は王家預りのため、長期雇用は王家に話を通してください」

「オリーブちゃんって王家預りだったの!? 宮廷魔術師は全員そうなのかしら?」


 一緒に来ていた宮廷魔術師たちが首をもげそうな勢いで横に振った。


 討伐後に氷河の上で滑り始める輩がいて苦笑いした。

 氷河の上で思う存分動けて戦いやすかっただろう。結界魔術師の使い方も学んだようでなによりである。これで領地内で結界魔術師を目指す者が増えれば冥利みょうりに尽きる。


 領主の館の秘密の通路を確認したり、防衛ラインを打ち合わせしたり。




 本格的な冬を前にしたある日の早朝、館を守っていた結界が破られた。




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◆領地に侵入者が現れました


◆北部山岳地帯ハクド シナリオ進行度:■■□

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