31悪夢2

 真っ暗な世界の中にいた。灯りは一つもなく、自分の足元さえもわからない。


 これは夢なのだと判断し、目を閉じる。

 五秒数えて目を開けると、四角い光があった。


 今夜は『最初からゲームスタート』ではなく、『続きからコンティニュー』であった。


 時期はテラコッタ王国とウィスタリア帝国間の戦争が激化した頃だろうか。


 テラコッタ王国軍は山沿いを進軍中に奇襲を受けた。

 空中に槍が生み出され、王国軍のいる地上に向かって降り注ぐ。魔術の槍と思いきや、それは本物の槍と同じ質量を持ち、王国軍を地表に縫い付ける。

 よけた者は無事であったが、障壁シールドは役に立たず、魔術除けのコートには穴があいた。


『ハハハハハハッ! 絶景だなァ……! つぶしてやるぜ、王国軍さんよォ』


 王国軍を壊滅状態にさせた者は、遠見の魔術を行使しながら歓喜の声を上げた。


 登場人物たちの台詞は文字に起こされるので、聞き間違いはない。

 名前も判明するまでは『???』と表示されるものの、前世で何周もしたせいで、声と姿で誰だかわかる。


 突風が吹き、フードがずれた。灰色のような白い髪がフードの中からあふれ出し、風に揺られる。

 中性的な顔立ちに、年齢は十代半ばだろうか。唇の皮が切れていて、血が出ていた。鼻は高く、年齢のわりに目の下のクマがひどい。印象的なのはスカーレットの瞳だろうか。

 瞳の色が推しに似て、い、て――。


 と似通った姿に目を見開く。

 ゲームのメッセージウインドウには『???』と表示されている。


『おい、転移用の魔力は残しておけ』

『わーってるーって』


 登場人物が増えた。白い髪の人物に声をかけた者の名前は『ケルメス』だ。

 私が推しの声を忘れるはずがないので、名前の表示がなくても、声を認識した瞬間に推しだとわかった。


『どうだか……』

『アンタは心配性だな。シルバー様にお任せあれってな』


「シルバー?」


 その名をゲームで耳にするとは思わなかった。

 心臓が早鐘を打ち、ゲームでのケルメスとシルバーの関係を想像して手が震えた。


『んで、次はどこ行くんだっけなー』

『地図を渡しただろう』

『チチチ。シルバー様の唯一の欠点は学がないコトだぜ』


 不明だった発言者の名前が、『シルバー』と表示される。


「どうして、そこにいるの……しかもティリアン様と一緒に……答えてよ、シルバー!」


 シルバーは見習い試験中に襲撃され、誘拐された。試験官として宮廷魔術師がそばにいたのにも関わらず、抵抗した形跡は一切なく、割れた結界石が残っていたのみ。

 自分だけの夢であるせいか、感情の制御がきかずに泣き叫んでしまう。


 シルバーはケルメスとともに敵になる可能性があったのか。

 特定のルートだけなのか、全てのシナリオで敵になるのか。ケルメス・ティリアンだけを追い続けたせいでわからない。

 王国で宮廷魔術師になり、ひっぱりだこになる未来はついえてしまうのか。

 ゲームの主人公、たったひとりの選択が彼の夢を奪うのか。たったひとりに振り回される人生でよいのか。


「まるで私みたい」


 四角い光が消え、真っ暗になる。

 夢からさめるまで胸元を抑えた。




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