27割れた結界石

 見習い魔術師試験の日がやってきた。

 思い返せば、私が宮廷魔術師になり、シルバーと出会ってから三か月も経っていた。

 春風は蒸すような夏の風に変わり、汗ばむ天気が続く。魔術師のローブには温度調整の効果があるので、長袖でも熱くはない。中に着る洋服は薄くて軽い素材に変え、通気性を意識してみた。

 マホガニー研究室は窓が全開にされている。結界に守られているので、強風が吹いても紙は飛ばず、会話の内容も外にもれない。施設内は空調管理もされているので窓を開ける必要はないのに、開けてしまうのは――夏という季節のせいだろうか。


「シルバー、試験に向けての意気込みは?」

「ねぇよ。やれることやるだけ」


 かわいいなあとシルバーの頭をなでたら、「子ども扱いすんな」と手を振り払われた。

 視線を下げると、シルバーのハーフパンツと膝小僧が目に入る。

 膝小僧を惜しげもなくさらせるのは子どもだけでは、とふと思ってしまった。


「子どもうんぬんを抜きにしても、シルバーはかわいい」

「かわいいって言うんじゃねぇ!」


 試験会場にはマホガニー研究室長が連れていくので、シルバーとは研究室で別れた。

 試験の手ごたえを聞きたくて、そのまま研究室で待っていたら、まさかあんなことになるとは思っていなかった。


 研究に手がつかない私を心配したのか、マロンさんが紅茶とクッキーを用意してくれた。

 紅茶の香りをかぎ、何度か深呼吸しているうちに落ち着いてきた。クッキーも口の中に入れるとほろりと崩れて、食べるのが楽しくなってしまう。

 言葉数が少ないカーキさんも珍しくそわそわしていて、研究室内を歩き回っていた。結局三人で休憩した。


 試験合格は間違いないだろうから、お祝いをしてもいいなあとぼんやりしているうちに、マホガニー研究室長が慌てた様子で研究室に飛び込んできた

 走らないと注意できるような状態ではなかった。並々ならぬ彼の様子に悪い知らせだと全員が察した。


「シルバーくんがさらわれた!」


 耳を疑うような発言に、手にしていたカップを落としそうになってしまう。


「試験官がシルバーくんを襲い、窓を突き破って逃げたんだ。逃げ足が速く、誰も追いつけなかったらしい」

「場所はどこですか!?」


 試験会場を聞き出し、私は一人で駆け出した。

 背後から呼び止める声が聞こえるが、立ち止まってはいられない。

 実際に現場を見るまで信じられず、廊下で人とぶつかりそうになっても気にせず走った。


 試験会場には数人の宮廷魔術師が残っていた。シルバーの魔力をたどろうとして、失敗に終わったようだ。

 足元には割れた窓ガラスの破片が散らばっていた。掃除される前に、シルバー誘拐のからくりを見極めようと目をこらした。

 不思議なことに抵抗したあとはなかった。魔力の残滓ざんしはほとんど残っていない。シルバーの魔力があるのは当然だとして、他の魔力がないのはおかしい。


「なにか光ってる……?」


 ガラスの破片の中に、割れた玉を見つけて拾い上げる。


「これは、私があげた――」


 黄褐色の結界石は割れていた。使い捨てなので、一回使うと壊れてしまう。発動したのに連れ去られてしまったということは、この結界石が効かなかったのか、あるいは効いてもすぐに持ち直されて、誘拐されたのか。

 まさか、強靭な肉体のみでシルバーをさらった? 私の魔術を物理で粉砕したとでも?


「シルバー……」


 唐突な別れに感情を整理できない。

 割れた結界石を胸に抱き、その場に膝から崩れ落ちた。




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◆称号を入手しました

  壊れた結界石:(入手条件:天才少年魔術師と絆を育んだ。)


◆天才少年魔術師ルートが開放されました


◆シルバーの情報が一部開示されました

  名前   :シルバー

  髪色   :銀灰色(光加減で白っぽくみえる)

  瞳    :スカーレット

  所持スキル:魔術創造、制限りみったー解除、全属性適性、等

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