24師弟対決
王都に張り巡らした網のうち、住宅街の一角が消滅した。
私の魔術が感知され、設置目的まで見破られて消されたのか、見知らぬ魔術が気になって消されたのか、現時点では判断がつかない。
目覚めても頭の中は晴れない。
医務室所属の魔術師に声をかけて研究室に戻ると、マホガニー研究室長が待っていた。
「シルバーは?」
「先に帰らせたよ~。カーキくんに嫌な顔されたけどね~」
カーキさんにシルバーを送ってもらったようだ。
マロンさんも席をはずしているようなので、研究室にいるのは私と研究室長だけだ。
念のため遮音結界を張り、会話内容がもれないようにする。
「大地の根が消失しました。場所は――」
報告を終えると、研究室長は神妙な顔つきになっていた。
「表立っては調査できないんだよなあ。巡回騎士に依頼しておくよ~」
「再配置しますか?」
「オジサンの一存では決めかねるなあ。判断を仰ぐからちょい待ち~」
研究室長が報告書を作成し、どこかに転移魔術で送った。
それほど待たずに返信がきた。
「様子見だとよ~」
「了解しました。最悪の事態を想定して、シルバーと実戦してみてもいいですか?」
「いいよ~」
一言だとはいえ、私の考えは読まれているだろう。
「面倒なことは大人に任せて、嬢ちゃんも今日は帰りな~。明日も休んでおく~?」
「シルバーに勘づかれそうなので、来ます」
迎えの馬車に乗り込んで、タウンハウスに戻った。自覚はないが顔色がおかしいらしく、メイドたちに心配された。夕食はそこそこにして、早めにベッドに横になる。
明日は――頑張らないと。
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試験官の前でも実力を出せるよう、数日前から見習いが使う広い訓練場で訓練を始めた。
見習い騎士や魔術師たちから時折横槍が入ってきたものの、シルバーは気にしていなかった。
むしろ「守護神さま」とわらわら集まられるせいで、私の精神力の方が削られてしまった。
シルバーに「守護神サマ」と言われた日には顔がひきつった。
訓練が終わり、研究室に戻ろうとしたら、見習い騎士や魔術師たちから練習試合を申し込まれた。断る理由もないので二つ返事で引き受けた。
常時結界では彼らの練習にならないので、正面のみの結界を盾のように可視化し、攻撃を受けたらはじき返す。
無効化される相手に対してどう攻めるかではなく、防がれた後の対処を考えさせようと、盾ではじいた後にこちらから一撃を加えるのも忘れない。
即座に立ち直れた者は合格。尻餅をついて動けなかった者は不合格。
私のカウンターをかわせた者は合格。もろに食らった者は不合格。
不意打ちも一つの戦略だ。正面からの攻撃が全てではない。
「シルバー。今日は実戦をします。あなたの全てを私に見せてください」
「……ここで?」
「ここで。人目が気になるから負けましたはなし」
私とシルバーを遠巻きで見物しているのは、他の宮廷魔術師たちだ。宮廷魔術師たちが利用している訓練場の方が安全管理がしっかりされている。
魔術師たちの大半は私の方を見ている。ローブに施された防衛魔術師の印が目に付くのだろう。
シルバーに目を向ける者たちは、白銀の髪と赤い瞳に注目している。全属性適性があるのか、研究欲を刺激されているのだろうか。 見習い魔術師になれば、さらなる奇異な視線を向けられるだろう。ここで
「ハンデとして、私はここから動きません」
自身を中心として、円柱状の結界を発動させる。
「へっ、いいじゃねぇか。この勝負、乗ってやるぜ!
威勢のよいかけ声とともに、先手をとったのはシルバーであった。
短い呪文とともに、風が襲い掛かってくる。恐らくこの風は
「
頭上から雷が落ちた。結界の上部を測定するための魔術だろう。
すると次は地面からの攻撃だろうか。相手が私でなければ、
私の動かない宣言をうまく
「
地面から植物の
「命中は問題なし。さてシルバー、問題ですよ。なぜ人は術名を宣言すると思いますか?」
「なぜって……言わないと発動しないから?」
「あなたは最初、呪文や術名を言ってましたか?」
「言ってねぇ……。でも言った方が形になりやすい感じはある」
「答えは人それぞれでしょう。私は、仲間への回避行動催促だと考えています。自己流ならまだしも、魔術によって効果と威力はだいたい決まっています。集団戦になったときにどんな魔術だか判断しやすいからです。対象に向かって発射するか、地面が動くか、空から落ちるか。術者と敵の間にいる仲間に誤射してしまう可能性がありますからね、術名は判断材料になります」
仲間と口裏を合わせておけば、より短い合言葉でいい。
ゲームで発動できるスキルは全て名前が決まっていた。これは選ぶ側がわかりやすいように、スキル名と効果を紐づけているのだ。属性を想像しやすい術名にしているのも重要だろう。
「賢いあなたなら、ここまで言えばわかるでしょう?」
「……アンタが静かなのはそういうわけか」
「敵をだますなら味方からよ」
味方にどのような魔術をかけているのか、私以外に知る必要はない。
支援魔術により力が増すとか素早くなるとかならば、魔術を受けた側の行動も変わるだろう。
防衛魔術の研究が遅れた理由の一つに、こういう事情もありそうだ。
「あなたは私に何を見せてくれますか?」
私は問いかけて、ほほえんだ。
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