21一触即発
「ケケケ、見習いでもないヤツがいるなあ? 止まれ」
見習い魔術師に声をかけられて立ち止まった。
彼らには隣にいる
目が節穴ならば、腕のいい回復魔術師、医者、薬剤師をお父様の
「私がいるから気にしないで。あなたが引き留められる理由はないよ」
「わかった」
シルバーに耳打ちし、何事もなく歩みを再開しようとして。
「あ? 止まれって言ってんだろ!? 止まりやがれ!」
背後から投げかけられる言葉がとげとげしくなり、普段よりも大きく張っていた結界が何かを弾いたので振り返る。
「……オリーブ?」
不安げな声を発したシルバーを背中に隠し、見習い魔術師たちに向かって口を開く。
「失礼ながら、攻撃魔術を感知しました。私闘での行使は禁止されているため、あなたたちの後見人に報告します」
「やめてくれっ、そこのガキが対応できるかどうか試したかっただけなんだ! だよな? なっ?」
魔術を放った少年が、周囲の見習いたちに同意を求めた。リーダー格なのか、実家が太くて頭が上がらないのか、他の見習いたちは全員頷いた。
そう出るならば、こちらにも考えがある。
「見習いのあなたたちが。殊勝な心がけですね。……ですが、この子を審査するのは私をはじめとした宮廷魔術師です。教えを乞う立場の方々が、他人をはかってはなりません。わかりましたか?」
「…………貴様だって、おれらと身長が変わらねぇじゃねぇか。本当に宮廷魔術師なのか?」
リーダー格の少年の発言に、周囲の見習いたちが必死に止めようとするも、少年はやかましいと腕を振り払った。
私は宮廷魔術師という身分を疑われている。十四歳なので見習いの彼らと年齢も外見もほぼ変わらないとはいえ、ローブには防衛魔術師の四角いマークが刻まれているので、見えない知らないとは言わせない。
「疑われるのは初めてです。先日就任したばかりですし。あなたたちのローブとは違って、ここに
「四角……防衛魔術……子ども……今年、就任した! 年齢制限のせいで試験を受けられず、推薦合格させる話が出たっていうあの!?」
少年の顔がみるみる青ざめていく。
「お詳しいですね。もしかして、私をご存じでしたか?」
暗にあなたたちのことは知りません、と匂わせる。
念のため補足すると、推薦合格は断った。私は規定の年齢に達してから実力で宮廷魔術師になった。
「失礼しましたッ。守護神サマのお手を
見習いたちが一斉に頭を下げた。
私が謝罪を受け入れない限り、彼らはそのまま頭を下げているのかもしれない。
「謝罪するのは私ではないでしょう。……シルバー」
「うん」
背中に隠していたシルバーがひょっこり顔を出すと、見習いたちが再び深く頭を下げた。
「謝罪を受け入れる?」
「うん。オレはアンタのおかげで何もなかったし。というか守護神サマの方が気になるんだけど」
「……んー、言いたくないけど、研究室で話そうか」
会話の流れで研究室に向けて
見習いたちがいつ頭を上げたかなんて、私のあずかり知るところではない――。
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オリーブとシルバーが去った訓練場には異様な熱気が渦巻いていた。
「ヤベッ、なま守護神サマと話しちまった、神々しかったぜ……」
「すごかったね。不意打ちだったのに無効化されちゃった。反射されなかったのは良心だろうね……」
「つれてた子は守護神サマの舎弟ー?」
「守護神サマじきじきに教えるなんて、尊きお方とか本の中にいる勇者だったりして」
「勇者? 魔王なんてどこにもいないぞ?」
話している見習いたちに、近付く人影があった。
「……みなさん。先程の一部始終、保護者にはわたくしから報告いたします」
「はっ、いた、魔王――じゃなくて先生!」
「首をはねられなくてよかったですね。――魔王と呼んだ方には特別な訓練を追加しましょう」
見習いたちは、ご立腹な先生にお灸をすえられた。反省文の枚数の多さに悲鳴が上がったが、首がつながっていることに感謝し、心を入れ替えて奉仕したという。
騒動後、問題児を更生させたとは露とも知らず、守護神オリーブ・オーカーの評判は人知れずうなぎのぼりになるのだった。
彼女が男の子を指導しているという話も一緒に伝わり、見習いがシルバーに突っかかることは今後一切なかったらしい。
シルバーが見習い試験に合格すれば、見習いたちの階級制度も変わるだろう。
見習いから宮廷魔術師になるものたち。魔術学校に通い、宮廷魔術師登用試験に合格して、一人前と認められるものたち。どちらの道にも優劣があってはならない。
ただし出自、年齢、性別を問わないのは建前だ。
お抱え魔術師がいるのは貴族で、危険な場所に優先的に送られるのは平民だ。
見習い魔術師を言い換えると、宮廷のお抱えひよっこ魔術師だ。将来性がある人材を発見し、放さないための。国家にあだなす敵にならないための。
すでにシルバーもテラコッタ王国の手中に収められている。
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