14守護神の正体
皇子との戦闘訓練を終えてから、私は帝国関係者との交流を華麗に逃げ切った。
正確に言えば、パーティーや狩猟会等でナイル殿下の護衛についたが、帝国側は私の姿を視認できなかったはずである。
さすがに見送りの際には学校代表として出席した。皇子の澄まし顔にぎらぎらした瞳が恐ろしくて、目が合わないよう必死だった。皇子の口元が『覚悟して』と動いたので、読唇もよいことばかりではなかった。
彼らの帰国後、タウンハウスの自室に置かれていた手紙は不審すぎて燃やした。『きみが欲しい』と一筆だけ書かれた手紙を送るような人物は一人しか思いつかなかった。一体どうやって手紙を持ち込んだのか。結界魔術に防犯も組み込むべきか。
頭痛の原因がいなくなり、穏やかな日々が戻ってきたので学業に復帰した。
推しと同時に卒業できるよう調整し、卒業後の進路も確定した。
目下の問題は魔術科の生徒たちであった。
「行くな……行かないでくれ……守護神さまがいないと失敗したときにどうすればいいんだ……」
「研究室にも防衛魔術はかかってますよ」
「魔術の研究は研究室だけでじゃないんだァ! 日々進化していく魔術を会得するには、校内のあらゆる場所で――」
「研究室でおとなしくしてください。反省するまで研究室から出られないようにしますよ」
「怪我人が増えるなんて過労で倒れちゃう……あたしを助けると思って、あと一年いて? 守護神さま?」
「働くようになったらそんな日々ですよ」
「いやぁ……魔力には限界があるのよ……バカな奴らにしぼりとられちゃう……」
「回復薬を増やすよう進言しておきます」
「守護神さま……! さらなる秘術を我らに与えたまえ!」
「将来、宮廷魔術師になれば会えますよ」
「おお! その手があったか! 今後もよろしくお願いします!」
「……意欲がすこいですね。一足先にお待ちしております」
やかましいほど魔術科の生徒たちに泣きつかれた。たまに教室にまでやってきたので追い返した。それでも中に入ってきそうな輩は結界魔術ではじいた。
私の存在自体が歩く簡易結界なので、新しい魔術に挑戦する人や、魔術に失敗して怪我したときに治療する人たちに重宝されたせいだ。この二年間、甘やかしてしまったらしい。なつかれてしまった。
防衛魔術志望の人たちには私の秘術を知りたいと押しかけられた。今まで出した論文を読破されていて恥ずかしかった。いい質問を投げかけられることもあったので、王国の未来は明るい。
学校入学からたびたび耳にしていた守護神さまとはどうやら私のことだったらしい。
友人に伝えたら、「なによ、いまさら」と
推しとは帰る時間が重なったので、校門まで一緒に歩いていたら「知らなかったのか」と呆れられた。
「はい、今日の今日まで知りませんでした……。教えてくれてもよかったのに」
「生徒たちに小声でささやかれていたと思うが……」
「遮音結界があるので、耳障りな音は聞かないようにしてるんです」
「
「特定の言葉で自動的に発動するので、どうにもできませんっ」
「誇るところではないだろう」
私が話題に上がるとき、たいてい推しも話題に上がる。
彼は外見のせいで評価を下げられた。私という例外を除き、生まれも色も選べないのに、一生後ろ指をさされないといけないなんて。
有象無象の人たちの言葉よりも、推しの言葉の方が何倍も何十倍もあたたかい。
彼が談笑できる時間を守っていきたい。今後ひとりぼっちにさせないために。
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