12アズライト皇子との戦闘訓練(前編)
頬を叩き、気合いを注入する。
結界魔術は永続性を重視され、建物や敷地全体といった空間にかけられるので、本来ならば戦闘訓練で目立つものではない。
とはいえ支援魔術に区分される防御のように対象や効果時間を指定し、突破されることを前提にすれば、短期決戦にも転用できる。
戦闘訓練は午後からなので、お昼休憩の時間に仕掛けを施そうと訓練場に着いたらまさかの先客がいた。
「やあ、オリーブ嬢。早いね」
「アズライト殿下こそ。早起きではなく、時間感覚が狂っているのではありませんか」
高貴な人物しか手にできない貴重な紫をまとった皇子は不敵で
皇子の腰にささっている鞘にも紫色が使われている。
もしかしてそれは帝国ゆかりの一品ではないかと息を
「狂っているなんて、僕が誰か知っているかい? 次期皇帝の座に最も近い男だ。恐れ多いと口を
「えぇ、存じております。ただ私はあなたの言う枠に収まるつもりはありません。なので申し上げます。――彼は渡さない」
「一人の男を次期皇帝と高名な魔術師で求め合う……。表現すると薄ら寒いな。まあ彼を
他者を寄せ付けず、誰にも
掌握したいという言葉に、己の手足として動かしたいという欲がちらついていた。
「私は彼を守りたい。そのためならば次期皇帝であろうと黙って見てはいられません」
威勢よくにらみつければ、皇子からは
「悪いけど、僕は国家間の争いにはしたくないんだ。あくまでも授業の
定刻を知らせる鐘が鳴った。
徐々に他の生徒も集まってくるだろう。
仕掛けは施せなかった。先に来ていた彼も私と同じ考えならば、先手を打たれたかもしれない。
「きみは知っているのだろう。あの男は帝国の血を色濃く引いている。僕としては見過ごすわけにはいかない。ただ――」ずいと皇子が顔を近付けてきた。「守るべきほどの男か?」
「……っ!?」
体中の血液が全て沸騰してしまいそうだった。
「またね」と手を降って去る皇子を尻目に、私はうつむいて唇をかみしめた。
しばらくして生徒が集まり、講師もやってきて授業が始まった。
私の頭の中では皇子に最後に言われた言葉がこだましていた。
『守るべきほどの男か?』
決めるのは私であって、他の誰かではない。
彼の価値を勝手に決めつけられた怒りが全身を駆けめぐっている。口を開けた途端、毒を吐いてしまいそうなので極力黙りを決め込んだ。
今日の戦闘訓練は自由形式で、一対一でも、一対多数でもいいという。なるべくこれまでに相手をしたことのない人、という注文がついたため、私と皇子は視線で合図をかわしていた。
いつもならば私は真っ先に
講師も興味があるらしく、審判を買ってでた。
推しもすみっこでこちらを気にかけてくれている。じっと見られたら緊張しそうだが、私の視界に入らないほどすみっこなので、試合途中に推しの声援を受けて舞い上がりはしないだろう。
私が心の準備をしている間、皇子は護衛兼側近に指示を出していた。訓練用の剣を使用するため命の危険はないこと。ただし
「この日を指折り数えて待っていた。どうか僕の邪魔をしてくれるなよ」
皇子が手にしているのは訓練用のありきたりな剣のはずなのに、夢の中の光景とたぶりそうになる。
思わず『皇帝』と叫びそうになり、ぐっとこらえた。
「僕はまだ
返事はせず、
講師の戦闘開始の合図とともに観戦者を守る結界が張られる。この訓練場に組み込まれているもの(特定のワードで自動発動)なので、私がたとえ魔力切れで倒れようと、問題ない。
デメリットとして、結界があるからと攻撃型の独擅場になる可能性がある。
防御型にとっては観戦者に意識がいかないだけでありがたい。場としては圧倒的不利。それでもやる。
開始の合図とともに皇子が突っ込んできた。
魔力をまとっていない剣筋を防御陣が編み込まれた短剣で受け止める。
「意外と速い」
初手を防がれ、皇子の目の色が変わった。
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