02今度こそ、私が守ってみせるから

 幸せな時間は無礼な襲撃に奪われる。


 身分の高い子息子女が集まったガーデンパーティー。

 場を荒らす無粋な足音。庭園の草陰より現れた闖入者ちんにゅうしゃたちは顔を隠しながら武器を持ち、空からは魔法の矢を降らす。


 遠距離からの攻撃は王宮に張られている基礎結界で阻まれたが、結界内部で発生した事象には効果がない。


 状況を素早く整理する。

 ある者は応戦を、ある者は避難誘導を。無力な者は親の名を叫んでいる。

 戦闘の最前線に立つのは夢の中の男と同じ色彩をまとう彼だ。『推し』という言葉の意味はわからない。ただ心の中で呟くと、むずむずして鳥肌が立つ。


 敵と味方の位置を頭に叩き込む。

 自身と競合する行いがされていないことを確認し、この場で最も有効であろう陣を描く。

 緑の芝生に蜘蛛の巣のような透明な網が敷かれ、外敵の足をからめ取る。

 魔法陣をもう一つ維持するのは骨が折れるので、上空から降り注ぐ驚異も網にかけて吸収させる。


 ゲームシステム(とは何だろう?)としては数ターン敵を足止めする妨害魔術。

 反射壁リフレクターは発動した次のターンで効果が切れてしまうし、消費するMP魔力もしゃれにならないので、攻撃は他の人に任せ、妨害魔術の維持に専念する。


 ゲームでは格上との戦闘時、『何ターンまで生存』が勝利条件であることが多かった。無論、余裕があれば撃破しても構わない。

 殿下の後ろに控える護衛らが迎撃しない様子から推測するに、これは耐久イベントに違いない。


 蚊帳かやの外からこちらを見つめる殿下と目が合い、煮え切らなくてにらみ返したら、酷薄こくはくな笑みを返された。あれはまさしく為政者いせいしゃの顔だった。


 意識を眼前の戦闘に戻したところ、私に向かってくる敵が一人いた。

 パーティ戦では回復役や厄介な相手から潰すのが鉄則だ。ゆえに私を排除しにかかるのも当然だ。

 継続している妨害魔術を中断し、自身も攻勢に移ろうと手を振り上げると――。


「やめるな、続けろ!」


 背後からボーイソプラノ声で怒号がとんできて、指示通りに妨害魔術を再開する。


 声を発した人物は黒衣をなびかせて、後ろから私を追い越し、敵に立ちふさがった。


 自身とほぼ変わらない大きさの背中がまぶしくて、不思議と怖くない。


 夢の中で何度も対峙し、得物の切っ先を向け合った赤紫色の『推し』にかばわれている。


 ――今度こそ、私が守ってみせるから。


 大人と子どもでは体格も膂力りょりょくも違う。

 妨害魔術で相手の動きを封じられても、膂力を弱めることはできない。


 敵も慣れてきたのか私の魔術に抵抗し、網の効果が切れかけている。このまま防戦を続けてもじり貧になるだけだ。

 意外と長い耐久イベントに、嫌な汗が流れていく。

 私も攻勢に移るべきだ。とはいえ、いつ、どのタイミングで?

 周囲に気を配れないため、やってもらうならば目の前にいる彼しかいない。


「そこのあなた、合図したら私とかわりなさい。3、2、1――」


 最後のカウントは告げずに、前と後ろを入れ替える。ぶっつけ本番であるというのに、彼は私の意図を上手くみ取ってくれた。

 綺麗な連携に思わず口角が上がり、己を鼓舞するための言葉が浮かんでくる。

 気分が乗ったまま私自身に魔術をかけ、敵に向かって突進する。


 奥の手《無敵状態》には触れたものを問答無用でなぎ倒す効果がある。壁であれば穴が開く。森であれば木が引き裂かれる。人であれば跳ね飛ばされる。私が走り去った場所には道があるのみだ。


 ということで私は軽快な音で敵を跳ね飛ばした。




 場違いな拍手と号令が響いた瞬間、緊張の糸が切れ、その場で膝から崩れ落ちた。

 いわゆるMP魔力切れだ。芝生がちくちくして痛い。

 魔術の長時間使用に加え、《無敵状態》になった。敵一人でイベントが終わらなければ、残りの敵全員に突撃するつもりであったのは内緒だ。


 遠くなる意識の片隅で、ぼんやりと淡く、紫色が揺れている。

 彼も無事に介抱されたようで、ほっと胸をなでおろす。


「……怪我はないかい?」


 視界が完全に真っ暗になる前に、誰かに抱き上げられた。嗅ぎなれた香りに安心感のある腕。きっとお父様だろう。


 もっと強くならなければとひそかに決意する。そうしなければ彼が悪堕ちして、やいばまじえる未来になるから。


 さっきから『ゲーム』だの『MP』だの『悪堕ち』だの、聞きなれない言葉が勝手に浮かんでくるが、これが前世から引き継いだ後悔――いや、未練なのだと理解した。




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◇あなたの性別を教えてください

  男 

 →女 

  秘密


◇あなたの生まれを決定してください

  平民

 →貴族

  王族

  ××(選択不可)


◇あなたの能力適性を決定してください

  物理

 →魔術

   攻撃魔術

   支援魔術

   回復魔術

  →防衛魔術


◇あなたの名前を教えてください

 【オリーブ  】



◆――ようこそ。

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