第4話 向日葵

体に電流が走る、とは正にこの事であろうか。

ある夏の日、僕は恋に落ちた。


雲ひとつない晴天の下で、彼女に出会った。

美しい金色の髪は、毛先が橙色に染まり、美しいクラデーションを描いていた。

ノースリーブの淡いグリーンのワンピースから伸びる真っ白な手。全てが、彼女の美しさを引き立たせていた。


彼女は微笑んでいた。淡い桃色の唇が緩く弧を描いていた。


一瞬で、虜になった。一歩、また一歩と彼女に近づく。意外にも、拒まれなかった為、いつの間にかすぐ目の前という距離まで来ていた。


「ごきげんよう」


可愛らしくも、大人気のある女性の声だった。それは甘い毒のようで、僕を蠱惑的に誘い出していた。夕暮れ時まで、彼女と話をした。気づけば僕のことばかり話していて、彼女のことはほとんど聞けなかった。それでもいい。


「また、ここで待ってるから」


そう言ってくれたから。


あの日から毎日、僕は彼女の元へと通い続けた。そして他愛もない話を続けた。彼女は僕のことばかり聞きたがるから、自分の話ばかりしていた。彼女が誰かなんて僕にとってはどうでもいいことだったから。


台風が接近してきていると、テレビのニュースが告げていた。しかし外を見ると快晴で、またいつものように出かけた。着く頃には少しだけ、遠くに曇天が見えた。


しかし彼女は居なかった。どれだけ探しても。段々風が強くなってきて、雨も降り出して、僕の不安を煽る。


「何処に行ったんだよ!」


何故か彼女がここに居る気がしてならなくて、探し回った。気づけば雨はザアザアと地面を打ち付けていた。


“居ない”。それを理解した瞬間、急激に力が抜けた。


無惨な姿の大量の向日葵たち。風と大雨で折れてしまったのであろう向日葵を抱きしめながら、全てを忘れて、叫んだ。雨が体にぶつかることも厭わずに。



また来夏、逢えますように。

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