外れ勇者だった俺が、世界最強のダンジョンを造ってしまったんだが？

第１２０話 それは企業秘密だ

　迫りくる悪魔の剛腕。

　その鋭利な爪の切れ味は凄まじく、上田の身体を軽々と輪切りにしてしまったほど。

　だがそれが俺の身体に届く前に、俺の穴掘り攻撃が炸裂していた。

　悪魔の右腕、その手首から先が消滅する。

　ぶんっ、と空振りを喫した。

「――――ッ！？」

　まさかこんな反撃を喰らうとは思ってもいなかったのか、さしもの悪魔も驚愕したのが気配で伝わってきた。

　よしよし、この距離からなら悪魔の身体にもしっかり攻撃が効くな。

　それにしても完全に空振ったというのに、その風圧だけで吹き飛ばされそうだ。

　まともに喰らっていたら、今の俺でも一撃で大ダメージを負っていただろう。

　悪魔はすかさず左腕を振るってきたが、それも同じように穴掘り攻撃で消し飛ばしてやる。

　今や念じるだけで穴が掘れるので、仮に相手の攻撃の出の方が早くても対処可能だ。

「――」

「っ！」

　悪魔が口を開いた。

　口腔の奥で魔力が膨れ上がる。

　渡部を瞬殺した魔力のレーザーを放つつもりだろう。

　直後、予想通りそれが射出されてきた。

　腕の攻撃を遥かに凌駕する速度で、今の俺でも反応できないほど。

　だが発射地点と狙い場所が分かっていれば、対処はそう難しいことではない。

　穴掘り攻撃を連射してそのレーザーごと消し飛ばす。

「今度はこっちから行くぞ」

「――――ッ！！」

　悉く攻撃を凌がれ、俺の強さを理解したのか、悪魔は高速移動で距離を取ろうとする。

　しかしダンジョン内での移動速度なら俺も負けてはいない。

　逃げた悪魔に穴掘り攻撃をお見舞いし、胸の辺りの肉を抉り取った。

「ん、その手……」

　よく見ると先ほど消失させたばかりの両手が、復活しつつあった。

　すでに手の甲あたりまで元通りになっている。

「アンデッドみたいに再生するのか。まぁ、そんな暇は与えてやらないけどな」

　俺は再びその腕の先端を消し去ってやった。

「――――ッ！」

　またしても逃げようとする悪魔。

　もちろん逃がしはしない。

　俺の作った空間内を飛び回る悪魔を追いかけながら、どんどんその身体を削り取っていく。

　頭を消し飛ばしても動き続けたのには驚いたが、それでもほとんど一方的に攻め続け、さすがに頭と両足と翼を失ったところで、悪魔は地面に転がった。

「まだ動いてはいるけどな。完全に消滅させておこう」

　そのまま肉片が一つも残らないよう、念入りに消し飛ばしていった。

「こんなところだな」

　――【穴掘士】がレベル６３になりました。

「た、倒して、しまった……あの上級悪魔を……しかも、これほど圧倒的に……」

　簡易塹壕の中から這い出してくる王女。

　そして恐る恐る訊いてくる。

「あ、あなたは一体、何者なのですか……？」

　うん、薄々そうだろうとは思っていたけど、やはり俺のことは覚えていないようだ。

　一応、王宮で会ってはいるんだけどな？

　まぁ人数も多かったし、俺はすぐに王宮を出たから記憶にないのも仕方ないだろう。

「それは企業秘密だ」

「企業秘密……？」

　わざわざ明かすと色々と面倒だと判断し、誤魔化す。

　それから俺は王女を抱え上げた。

「な、何をっ……」

「神殿にお帰り願おうと思って」

「じ、自分で歩けます……っ！」

「いや、明らかに腰が抜けてるだろ」

「～～～～っ」

「ついでに一人じゃここから出られないだろうし」

　なにせ神殿に戻るには、穴を登らなくてはならないのだ。

　先ほどの王女が落ちてきた穴のところまで戻ると、俺は思い切り跳躍した。

　穴の壁を何度か蹴りながら一気に駆け上って、神殿内に着地する。

「あ、相変わらず、信じられない身体能力ですね……」

　ただしそれは穴の中だけだ。

　穴から出てしまったので、大幅にステータスが低下してしまった。

「じゃあ、これで」

「ちょっ、ちょっとお待ちください！」

　とっとと穴の中に戻ろうとしたら呼び止められてしまう。

「……助けていただいた上に、こんなお願いまでするなんて、大変厚かましいと思いますが……この奥の祭壇まで、付いてきていただけませんか？」

―――――――――――――――――――

『栽培チートで最強菜園～え、ただの家庭菜園ですけど？～』の漫画版５巻、本日発売です！！

https://magazine.jp.square-enix.com/top/comics/detail/9784757592353/