第119話 せめてそこに隠れていろ

 神殿の最奥で待ち構えていた刺客の一団。

 彼らと王女一行の戦いの様子を、俺は地面の中から見ていた。


「何か危ないクスリをやってるみたいだが、長谷川たちだけでも十分そうだな」


 あえて俺が加勢する必要もなさそうだと高を括っていると、何やら不穏な気配が漂ってきた。


「何だ? もっと奥の方から……」


 地中からでも、ここがかなり広い空間で、奥には祭壇らしきものがあるのは把握できていた。

 その祭壇に近いあたりから、異様な魔力が膨れ上がってくるのを感じたのだ。


 そちらに近づいていくと、何やら怪しげな魔法陣が地面に描かれていて、周囲には謎のローブ集団。


「これ、放っておくとヤバそうだな? このまま地面を掘って魔法陣を破壊してやった方がいいかもしれん」


 王女たちと戦っている連中は恐らくただの時間稼ぎ。

 何をしようとしているかは分からないが、本命はこちらの魔法陣の方だろう。


 発動される前に潰しておくのがよさそうだと思ったが、残念ながらその前に魔法陣が輝き出した。


 そうして現れたのが、悪魔と思われる恐るべき魔物だった。

 自らを召喚したローブ集団を瞬殺すると、すぐに次の標的を王女一行に向けた。


 あっさり上田が殺されると、渡部もやられ、王女と小野を逃がして囮を買って出た長谷川もほとんど瞬殺された。


「マジかよ、こいつ強過ぎだろ!?」


 思わず叫びつつ、すぐさま加勢に入ろうとするも、ステータスが元に戻る地上で戦ってしまっては明らかに分が悪い。

 下手をすれば俺も瞬殺される可能性があった。


「助けると言っても、地上に出て加勢するくらいかと思っていたんだが……こうなったら仕方ない、まずは王女を地中に……って、走っているせいで難しい!」


 そうこうしているうちに小野までやられてしまったが、幸いそこで王女が動きを止めてくれたので、何とか穴を掘って地中に落とすことができた。


 そして落ちてきた彼女をキャッチ。


「ど、どういうこと……ですか?」


 大丈夫かと尋ねたところ、返ってきたのがそんな言葉だった。


 うん、そりゃ、意味の分からない状況だよな。


 もちろん情報量が多すぎて、いちいち説明している時間などない。

 ここがダンジョンだということも隠したいし。


「とりあえず運ぶぞ」


 俺は彼女をお姫様抱っこしたまま、いったんその場から離れる。

 恐らくあの悪魔が彼女を追ってくるだろう。


「は、速すぎませんか!?」

「舌を噛むから喋らない方がいいぞ」

「~~っ!」


 そうしてある程度の距離を取ったところで、俺は周囲の土を掘りまくった。


「な、何を……」

「やつを迎え撃つのに広い空間が必要だからな」

「っ!? まさか、あの悪魔と戦うつもりですか!?」

「もちろんだ」


 すでに悪魔がこのダンジョン内に侵入してきたのは、システムの通知で把握している。

 警戒しているのか少し動きが慎重だが、このまま放っておくわけにもいかないし、戦う以外の選択肢はない。


「(問題は王女がいるせいで、従魔たちを呼ぶのが難しい点か。ここがダンジョンだってこと、バレたくないんだよな)」


 今ならまだただの穴ということで誤魔化せるだろうが、魔物が加勢にきたらさすがに誤魔化し切れない。

 万一のときは魔物呼び出しを使わざるを得ないと思うが、ひとまず俺一人で戦うとしよう。


 そうしてあっという間に体育館ほどの広さの空間ができあがる。


「こ、これは、土魔法……? で、でも、魔法を使っているような感じはまったくなかった……一体、どうやって……」


 王女が唖然としているが、悪魔はもうすぐそこまで来ていた。

 完成したばかりのこの場所に姿を現す。


「あんたは下がっててくれ」

「っ……わ、私も戦います!」

「その必要はない」


 足手まといだし、むしろ逃げてもらいたいくらいだが……頑固そうだし、たぶん言っても聞かないだろう。


「せめてそこに隠れていろ」

「ひゃっ!?」


 足元に浅めの穴を掘って、そこに落としておく。

 簡易的な塹壕のようなものだ。


 そうこうしている間に、悪魔が一気に距離を詰めてくる。

 長谷川たちも成す術がないほどの移動速度だが、地中にいる状態の俺ならはっきりとその動きを目で追うことができた。


 繰り出される右腕の一撃に対して、近距離からの穴掘り攻撃をお見舞いする。


 ズドンッ!!


 悪魔の右手が消失した。


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