第121話 ついでに男のパンツも置いていこう
「この奥の祭壇まで、付いてきていただけませんか?」
どうやらこんな状況でも、王族の試練を果たすつもりらしい。
悪魔は倒したが、魔物も徘徊しているし、ここで王女一人を行かせて死んでしまったら何のために助けたのか分からなくなってしまう。
「まぁそれくらいなら」
「あ、ありがとうございます……っ!」
「……まだ立てなさそうだし」
「さ、さすがにもう大丈夫なはずです……っ! こ、この通り!」
生まれたての小鹿のように、足をぷるぷるさせながら立ち上がる王女。
うーん、これでは魔物と遭遇したら一巻の終わりだな。
一緒に祭壇へと向かうことにした。
するとその途中、王女は突然、ハッとしたように、
「も、申し訳ありませんっ! 色々と驚くことが多すぎて、お礼も申し上げていませんでしたっ! 助けていただいて、本当にありがとうございます……っ! 正直まだ混乱していますが……あなたがいなければ、私は今頃この世にいなかったと思います!」
深々と頭を下げてくる。
「無論、言葉だけで十分だとは思っていません。無事に試練が終われば、必ず具体的にお礼をさせていただきます」
「いや、別にいいって」
「そ、そういうわけにはいきませんっ」
そうこうしているうちに祭壇のある部屋に辿り着いた。
生き残りの刺客が襲い掛かってきたりもしたが、あっさり片づけて祭壇のところへ。
「(……刺客の心臓に一瞬で穴が……何度見ても、やはり何の攻撃をされているのかが分かりません……)」
「まだいるかもしれないから、俺はここで見張りをしておく。その儀式とかいうのに集中してくれていいぞ」
「は、はい、ありがとうございます」
三十分ぐらいだろうか。
祭壇に向かって何度か頭を下げたり祝詞のようなものを唱えたりしていたが、やがて王女は大きく息を吐いた。
「……終わりました。これで晴れて、王になる資格が得られました」
どうやらこの儀式をしなければ、王族であっても王位を継承することができないらしい。
「(そして私の王位継承を阻止せんとするネイマーラの卑劣な企みも、この方のお陰で無事に退けることができました。もはや私も手段を選びません。必ずやあの男を蹴落とし、私が王位に就いてみせましょう)」
儀式のお陰か、心なしか先ほどよりも覚悟の籠った目をしている。
そして彼女を神殿の出口付近まで送ったところで、
「じゃあ、俺はこれで。見知らぬ人間が一緒に出てきたら怪しまれるだろうからな」
「……仮にそうだとしても、私の命の恩人を怪しむ者たちには、私からしっかり言い聞かせます」
「けど、護衛は最大で四人までなんだろ? この試練自体が失敗扱いになったら元も子もないぞ」
「? なぜそれを……?」
おっと……ちょっと余計なことを言ってしまったかもしれない。
「……ご存じかもしれませんが、私はバルステ王国の王女をしております。いつでもいらっしゃってください。必ず今回のお礼をいたします」
「まぁ気が向いたらな」
そう言い残して、俺は神殿の奥へ引き返す。
先ほど開けた穴から戻るつもりだった。
「そうだ。一応、あいつらの装備とかを回収しておくか」
悪魔に殺された長谷川たち。
王宮で生き返っているはずだが、身に着けていた装備やアイテムは死んだ場所に残ったままなのだ。
「これは小野のだな。……ん? 何だ? この布切れは……」
ハンカチくらいのサイズの謎の布が落ちていたので、拾って広げてみる。
パンツだった。
「……うん、こいつはその辺に捨てておこう。持って帰ったら喜ばれるどころか変態扱いされてしまう」
金ちゃん経由で渡すつもりなので、変態扱いされるのは金ちゃんになるかもしれないが……。
ついでに男のパンツも置いていこう。
こうして古代神殿の中に、四枚のパンツが残されたのだった。
――――――――――――――――――
コミック版『無職の英雄 別にスキルなんか要らなかったんだが』の8巻が、今月12日に発売されました! よろしくお願いします!(https://www.earthstar.co.jp/service/detail/item-8006/)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます