第116話 ここまで腐っているとは
倒したはずの刺客が身を起こし、再び躍りかかってきた。
その理解できない現象に、長谷川は思わず叫ぶ。
「ど、どういうことだ!? 何で普通に動ける!?」
その刺客には先ほど、ほとんど致命傷に近いダメージを与えたはずだった。
少なくとも立ち上がってくるなどあり得ない。
だが復活したのはその刺客だけではなかった。
他の者たちも次々と立ち上がり、何事もなかったかのように戦線復帰してくる。
「くそ……っ! これならどうだっ!?」
長谷川は意を決し、復活した刺客の首を狙って斬撃を放つ。
敵とはいえ、相手は人間。
平和な世界で育った彼らにとって、やはり殺すことには抵抗があり、そのため今までは致命傷を避けて攻撃していたのだ。
「っ……」
刺客の首を斬った感触があった。
思わず顔を顰める長谷川だったが、しかし結果は予想外のものだった。
首を斬られたはずの刺客は、一瞬よろめいたものの、再び襲い掛かってきたのである。
「どういうことだ!? こいつら、不死身なのか!? それともアンデッド!?」
だが長谷川の剣には確かに血が付いている。
生きた人間から出た、生々しい真っ赤な血だ。
そのとき刺客が被っていたフードが外れ、その顔が露わになった。
大きく見開かれた目は、真っ赤に充血して爛々としている。
口の端からは血と共に涎が垂れていて、ブツブツと何かを呟き続けていた。
明らかに正気とは思えないその顔に、セレスティア王女が叫んだ。
「いえっ……これはっ……まさか〝バーサーク〟っ!?」
「バーサーク……?」
「魔法で作られた危険な魔薬の一種ですっ! その中にはステータスを大幅に引き上げる代わりに、正気と痛覚を失わせ、その名の通り人間を狂戦士に変えてしまう……っ! まさかそんなものを、彼らに飲ませたというのですかっ!? ネイマーラめっ、ここまで腐っているとは……っ!」
義憤のあまり、鬼の形相で吐き捨てるセレスティア。
ただ、あくまで魔薬によって痛覚を遮断しているだけで、決して不死身というわけではない。
「だ、だったら、殺すしか……」
そう口にする長谷川の声は震えていた。
「(む、無理だろっ……さっきだって、めちゃくちゃ覚悟して首を狙ったってのに……っ!)」
一人だけならともかく、これだけの数の人間を殺めるなど、想像しただけでも呼吸が苦しくなってしまう。
それは当然、他の勇者たちも同様だろう。
「魔物が相手ならともかく、人間を殺すのに抵抗がある……それを知った上で、この刺客たちをっ……」
セレスティア王女は顔を歪めつつ、覚悟したように声を張り上げた。
「大丈夫です、皆さん! トドメは私が刺しますっ!」
「王女様っ? で、でもっ……」
「皆さんは奴らの足を破壊してください! たとえ痛覚が失われていても、足を壊されれば物理的に立ち上がることが不可能です!」
「くっ……わ、分かりました……っ! こいつら全員、俺たちが動けなくしてやります……っ!」
護るべき王女に余計な負担を強いざるを得ない自分のことを情けなく思いつつも、今は考える時間も余裕もない。
長谷川はすぐにその方針に同意し、刺客の動きを封じることに徹することにした。
幸い不死身でない以上、ダメージを負っても最初と同じ強さで戦えるはずはない。
復活する度に明らかに動きが鈍くなっていく。
また、狂戦士状態にある彼らの中には回復を行える者もいない。
戦況はやはり王女一行の優勢へと傾いていった。
しかし、彼らはまだ気づいていなかった。
この刺客たちなどとは比較にもならないほどの脅威が、彼らに迫っていることに。
祭壇の間の奥。
王女一行が刺客と激しい戦いを繰り広げる中、ローブを身に纏う謎の集団が、とある儀式を行っていた。
足元には巨大で禍々しい魔法陣。
集団が一斉に魔力を注ぎ込むと、不気味な文様が輝き出した。
「「「顕現せよ、魔界の――」」」
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