第115話 私も戦いましょう!
セレスティア王女一行は、順調に神殿内を進んでいた。
途中、幾度も魔物が襲い掛かってきたが、護衛の勇者たちが危なげなく撃破している。
ドラゴン級ではないとはいえ、やはり強力なジョブを持つ勇者たちにとって、この神殿の魔物ぐらいなら不覚を取ることもないだろう。
「(……さすがは勇者様ですね。召喚されてから半年程度で、ここまで戦えるとは)」
雰囲気的にはいかにも頼りなさそうな面々ではあるが、実力的にはすでにこの世界でもトップクラスの戦士と言っても過言ではない。
「(しかも彼らはグリフォン級……。各国が挙って勇者召喚に挑戦されるのも理解できます。だからこそ、その扱いは慎重でなければならないわけですが……)」
彼女の兄であるネイマーラ第二王子は、セレスティアの方針にも大きな不満を抱いているようだった。
勇者たちに自由を与えるという生温い方法を取るのではなく、もっと管理が必要だと考えているらしい。
そして正式に王国の武力として組み込み、場合によっては他国との領土争いにも活用するべきだと主張している。
「(我々とは文化の違う世界からいらっしゃった人たちです。そんなやり方では、彼らの反発を招いて、国外に逃げてしまうでしょう。そんなことも分からないなんて……)」
愚かな兄に、セレスティアは嘆息するしかない。
そうこうしているうちに、一行は神殿の最奥へと辿り着いていた。
遠近感が狂いそうなほど広い空間で、その奥に祈りを捧げる祭壇がある。
「ま、待ってください!」
そのとき突然、【レンジャー】の小野が叫んだ。
「柱の陰に……何かが隠れていますっ!」
床と天井を繋ぐ、長い柱。
この空間にはそれが無数に存在しているのだが、どうやら小野のスキルが柱の裏側に潜む存在を感知したらしい。
「魔物ではなさそうですね」
鋭い表情で身構えるセレスティア。
そして彼女を護るように、長谷川、渡部、上田の三人が壁を作った。
直後、柱から次々と何かが飛び出してくる。
漆黒のマントに身を包んだ、人間たちだ。
「速い……っ!」
「気を付けてください! 恐らくは私をこの場で始末するために用意された刺客たちですっ!」
セレスティアが叫ぶが、数が多い。
本来ならば王族とその同行者だけが入ることを許されるこの神聖な神殿内に、これだけの刺客を潜ませておくなど、王国の歴史に泥を塗る冒涜だ。
しかも祭壇のすぐ目の前である。
「(こんな真似が許されていいわけがありません……っ! 絶対に退けて、王宮に戻らなければ……っ! そしてこのことを糾弾し、あの男を権力の座から叩き落して差し上げましょう……っ!)」
第二王子への怒りを露わにしながら、セレスティア自身も槍を構えた。
そして長谷川と斬り合っていた刺客へ、渾身の突きを繰り出す。
「王女様っ!?」
「私も戦いましょう! こう見えて【戦乙女】のジョブを与えられ、槍の扱いには自信があるのです!」
さらに【戦乙女】には、仲間たちを鼓舞し、一時的にそのステータスを上昇させるスキルがあった。
「戦意高揚!」
直後、明らかに勇者たちの動きが機敏になった。
刺客の数が多く、また奇襲のせいでやや押され気味だったのが、一気に優勢へと転じる。
攻撃力も上がっているようで、【剣豪】長谷川の剣が刺客二人をまとめて斬り倒すと、【魔法剣士】渡部の風魔法が五人同時に二十メートル先まで吹き飛ばした。
もちろん防御力も向上している。
【モンク】の上田は、敵の攻撃を篭手であっさり受け止めると、カウンターの拳を叩き込んでいく。
一方、【レンジャー】小野は俊敏な動きで敵の攻撃を躱しつつ、適宜、味方の回復をしたり、敵にナイフを投擲したりして、刺客を翻弄した。
刺客の人数が減ってくると、さらに戦況は王女一行の有利へと傾いていく。
「皆さん、この調子ですっ! 一気に敵を全滅させましょう!」
だがそう叫んだセレスティアは、次の瞬間、異常な光景を目撃することとなった。
倒したはずの刺客が、何事もなかったかのように起き上がったのだ。
「……は?」
唖然とする彼女を余所に、再びその刺客が襲い掛かってくる。
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