第114話 急に天井が透けてきたような

「(とはいったものの……普段の神殿であれば、今の彼らでも十分に対処できたでしょう。ただ、確実にネイマーラが動いてくるでしょうからね)」


 ネイマーラ第二王子は、セレスティア王女と王権を争う天敵だ。


 元々はネイマーラ第二王子こそが次期国王の有力候補だった。

 それが幼い頃から非凡なる才能を見せたセレスティアの登場により、二番手に後退してしまったのである。


 それを決定づけたのが、勇者召喚だ。


 勇者召喚の儀は当初、第二王子が監督して行われていたのである。

 だがそれにことごとく失敗し、彼が監督の任から降ろされると、後任となったセレスティアがあっという間に成功させてしまったのだ。


 有能ではあるがプライドの高い第二王子にとって、これ以上ない屈辱だったに違いない。


「(王の座に固執しているあの男は、多少の汚い手を使ってでも私を亡き者にしたいと考えています。この試練はそのための絶好のチャンス……逃すはずがありません)」


 理想を言えば、ドラゴン級の勇者たちで護衛を固めることができれば、もっと安心だっただろう。

 あるいはグリフィン級でも、もう少しレベルアップしてからであれば、何の不安もなかったはずだ。


「(……ないものねだりしても意味はありません。私自身も、できる限りの対策はしてまいりました。相手がどんな手で来たとしても必ず打ち破ってみせましょう)」




   ◇ ◇ ◇




「神殿の中に入ったみたいだな」


 セレスティア王女と長谷川たち勇者の動きを、俺は地面の下、ダンジョンの中から把握していた。


「まさか、こんな形で俺が同行することになるとは……」


 金ちゃんが長谷川に言った〝助っ人〟。

 それは目の前にいた俺だった。


 一応、事前に神殿内部であっても、ある程度は地中から把握できることは確認してある。

 さすがに何階層もあったら難しかったが、幸いこの神殿は階層が一つしかない。


 数人が動いて、神殿の奥に進んでいくのが何となく分かる。

 さすがに誰が誰かまでは分からないが。


「ん、何だ……? 急に天井が透けてきたような……?」


 不意に天井が透明化してきた感覚があって、俺は思わず目を凝らした。


「いやいや、さすがにそんな都合のいいことは……ない、はず……だが……」


 どんどん天井の透明化が進んでいき、あっという間に否定できないレベルになってしまった。

 もはや神殿の天井も、歩いている王女たちの足の裏も、はっきりと見える。


 ――スキル〈地上知覚〉が進化し、スキル〈地上視覚〉になりました。


「って!? スカートの中まで丸見えなんだが!?」


 俺は慌てて目を逸らした。

【レンジャー】の小野や【モンク】の上田はズボンだが、王女はスカートのため、真下から見るとパンツがばっちり拝めてしまうのである。


「ふ、不可抗力だから仕方ないよな……しかも様子を確認するためには、見るしかないな、うん……」


 まさか地面の下からスカートの中を覗かれている(意図的じゃないぞ!?)とは露知らず、王女は神殿の奥へと進んでいく。

 かなり複雑な構造をしている神殿だが、迷う様子がないのはあらかじめルートが頭に入っているのだろう。


「っ、何か前の方から近づいてくるな。魔物か」


 ダンジョンではないが、この神殿内には魔物が多数、徘徊しているらしい。

 バルステ大樹海のような魔境もそうだが、魔力の充満しているような場所には、自然発生的に魔物が出現するという。


 王女一行の前に現れたのは、牛頭人身の魔物、ミノタウロスだ。

 頭に生えた鋭い角を見せつけながら、前傾姿勢で突進していく。


 しかし【レンジャー】の小野がいることもあって、とっくにミノタウロスの接近に気づいていたのだろう。

 勇者たちはすでに迎撃態勢を整えていた。


【魔法剣士】の渡部が風魔法をミノタウロスの横っ面に叩き込むと、バランスを崩したミノタウロスは盛大に横転。

 すかさず【剣豪】長谷川と【モンク】上田が飛びかかって、ミノタウロスを蹂躙したのだった。


―――――――――――――――――――

コミック版『魔界で育てられた少年、生まれて初めての人間界で無双する』4巻とコミック版『ただの屍のようだと言われて幾星霜、気づいたら最強のアンデッドになってた』4巻、本日発売です! ただの屍の方は完結巻となります! どちらもよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る