第112話 ピンチかもしれないんだ

「よお、久しぶりだな」

「えっ? ちょっ、穴井じゃないか!? お前、生きてたのか!?」


 こちらから声をかけると、長谷川は目を丸くした。


「一応俺も勇者だからな。死んでも生き返るはずだろ。いや、まだ一度も死んでないが」

「それはそうだが……」


 何か聞きたそうな顔をする長谷川だったが、しかし俺たちは別にそれほど仲が良いわけではない。

 長谷川自身もおしゃべり好きというわけではないので、久しぶりの再会だったにもかかわらず、それだけで話が途切れた。


「それで何の用でござるか?」

「あ、そうだ。実はちょっと、セレスティア王女がピンチかもしれないんだ」


 セレスティア王女。

 俺たち勇者の召喚に尽力し、召喚後も色々とサポートをしてくれているという人物である。


 これは最近知ったことだが、実は俺が王宮から出るときに結構な額の軍資金を貰えたのは、彼女の意向が大きかったらしい。

 外れ勇者だったのに、酷い扱いをされなかったのも彼女のお陰かもしれない。


 そんなセレスティア王女なので、勇者たちからも慕われているという。

 自由が許されているにもかかわらず、この国を拠点としている者たちが多いのも、彼女の人望かもしれない。


 次期国王の有力候補とも言われているそうだ。

 ちなみにこの国は歴史上、女王が治めていたことも多いのだとか。


「けど、そんな王女殿下のことを隙あらば蹴落としたいと考えている政敵がいるんだ。それが彼女の実兄のネイマーラ第二王子なんだが……」


 そしてこの国の王族たちには、必ず十八歳になったときに受けなければならない試練があるという。

 それは王国創建の時代からあるとされる神殿に赴き、その最奥の祭壇で祈りを捧げるというものだった。


「セレスティア王女殿下は今年で十八。まさにその試練を受ける年齢で、先日その具体的な日時が決まったらしいんだけれど……地下神殿のある領地を治めている貴族が完全にその第二王子派らしく、何かを仕掛けてくる可能性が非常に高いんだ」


 神殿内には魔物も出るため、護衛も同行することができるというが、最大で四人までと決まっているらしい。

 当然、王女側は自陣営でも最高の戦力を連れて行こうとしたが、第二王子のせいでそれが難しくなってしまったという。


「ただ、天野たちは試練の塔に挑戦中だし、他の四人のドラゴン級もダメで、残ってるのは俺を初め実力的にちょっと心許ないグリフォン級だけなんだよ」

「なるほどでござる」

「金ちゃん、どうにかならないかな? たとえば一ノ瀬の居場所を知ってるとか……ちょっと前に王宮に顔を出したってのに、またどこか行っちゃったみたいでさ……」

「う~ん、残念でござるが、拙者は把握していないでござるよ」

「そうか……たとえば他に誰か、強そうな人を知ってるとか……そうだ、そこのメレンさんとか……いや、無理だよなぁ」


【暗殺者】のメレンさんを同行させるとか、許可が下りるとは到底思えない。

 話を聞いていた俺はそこで口を挟んだ。


「それなら田中が適任じゃないか? あいつ隠密が得意だし、隠れてこっそりついていけばいいだろ。実力的にもドラゴン級と遜色ないはずだ」

「いやいや、田中こそどこにいるのか分からないって。それにあいつがこんな仕事を引き受けてくれるとは思えないよ」


 長谷川が首を振る。


「はぁ、どうしたらいいんだ……。第二王子は俺たち勇者の存在を疎ましく思ってるみたいだし、もし王女様に何かあって第二王子が権力を握るようなことがあったら、色々と面倒なことになりそうなんだよね……」


 王宮内の権力争いは、どうやら俺たち勇者にも影響のあることらしい。

 と、そこで金ちゃんが何か思いついたらしく、ちらりと俺を見てから、


「ふふふ、それなら長谷川殿。実は良い助っ人がいるでござるよ」


 何だろう。

 嫌な予感がする。


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