第108話 すがすがしい気持ちにもなるね!
フィールドHを作成すると、マンションが出現した。
何を言っているか分からないと思うが、俺にも分からない。
どうやら「フィールドH」は「団地フィールド」だったようだ。
1500ポイントを使って指定した一帯に作成すると、五階建ての「コ」の字型をした建物が出現し、各階十二部屋、全部で六十の部屋で構成されている。
部屋の広さはすべて共通の3LDK。
当然ながらトイレやお風呂、キッチンなどが付いていて、収納スペースも多い。
もちろんこれを作成するのに、かなり広いスペースが必要だった。
天井も高く、どこかの市民体育館のようは広大な空間だ。
「こんなに住む人間いないんだが? まさか、今後このダンジョンにこれだけの住民が増えていくというフラグじゃないだろうな……?」
そんな不安を抱きつつ、とりあえず今は使い道もないので放置しておくことにした。
その日、男性用の温泉に入ると先客がいた。
「レインか。どうだ? ここでの生活には慣れたか?」
「……っ!?」
「ん、どうした?」
なぜか俺の裸を見て目を見開いたかと思うと、慌てて顔を背けるレイン。
俺はハッとする。
男湯だからと何の気なしに全裸で入ってきてしまったが、温泉文化のある日本の感覚では普通でも、そうした文化のない外国人には抵抗があると聞いたことがあった。
この世界も同じだとしたら、いきなり全裸で現れた俺に驚くのも当然だろう。
よく見るとレインは胸のところまでタオルで隠した状態で、お湯につかっている。
俺は慌ててタオルで股間を隠した。
「すまない。俺のいた世界では、みんな裸で入るのが一般的だったんだ」
「……そ、そうなのか……いや、別に謝ることじゃない」
身体が温まったせいかもしれないが、レインは心なしか顔を赤くしてボソボソと言う。
しまったな。
気まずい感じになってしまった。
しかも元から中性的な顔立ちのレインが、胸のところまでタオルで隠す女性のようなスタイルでいるため、女性に見えてしまう。
幸い湯気で互いが見えにくいので、少し距離を取って湯船に浸かった。
するとしばらくして、レインが意を決したように、
「マルオ氏っ……温泉というものは、裸で入るというのが一般的なんだなっ?」
「え? 一応、俺の世界ではそうだったが……」
「ならば、ぼくもそれに準じるとしよう! 郷に入っては郷に従えというし、ここに住まわせてもらっている身として、君たちのルールに乗っ取るのがやはり礼儀というもの!」
「そこまで真剣に捕えるようなものでは……別に気にしないし……」
「いいや、君がよくとも、ぼく自身が許せない!」
ざばん、と勢いよく立ち上がるレイン。
そうして濡れたタオル越しの肢体が露わになったその瞬間、俺はこれまでとんでもない間違いを犯していたことに気が付いた。
「……は? 胸が……膨らんでいる……?」
俺はずっとレインのことを、中性的な顔立ちのイケメンだとばかり思っていた。
身長が俺とあまり変わらず、しかも鎧に身を包んでいた上に、厳つい男ばかりの集団を率いていたことで、端からそう決めつけてしまっていたのだ。
だが思い返してみれば、今までレインが男だと聞いたことは一度もない。
女だとも言われていないが……ちゃんと疑ってみるべきだったのだ。
「ま、待ったあああああああああっ!」
俺は慌てて叫んだが、間に合わなかった。
そのときにはすでに、レインは辛うじて裸体を隠していたタオルを、勢いよく引き剥がしてしまっていたのである。
「こ、これでぼくもここの一員になれた気がする……っ! ちょっと恥ずかしいけれどっ……だけど、開放感もあって、なんだかすがすがしい気持ちにもなるね! ん? どうしたんだい? ぼくもタオルを外したのだから、君も外せばいいだろう? なぜ蹲って顔を背けているんだ?」
全裸のまま近づいてくるレインに、俺は思わず「こっちに来るなっ!?」と叫んでしまった。
――――――――――――――
新作『追放王子の気ままなクラフト旅』を少し前から連載中です。よかったらこちらも読んでみてください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます