第104話 ようやくこの国に朝が
「か、壁が消失したああああああっ!?」
絶叫するリッチゴースト。
さらに今度は床に沈んで姿を消したが、俺はその床を掘って追跡する。
「一体どうなっているんだい!?」
「絶対逃がさないってことだ」
追いかけながらも俺は攻撃を続けている。
距離があるためさらに威力が弱まっているが、それでも確実にリッチゴーストの身体が小さくなっていく。
「こ、これならさすがに追ってこれないだろうっ!」
一階まで逃げたリッチゴーストは、ついには地中へと逃げ込んだ。
「むしろその先は俺のフィールドだぞ?」
もちろんそのまま穴を掘って後を追う。
地中に飛び込んだところで、ステータスアップの恩恵を受けて、身体が軽くなった。
逃げるリッチゴーストの距離が一気に詰まっていく。
「どうなっている!? 今のこの僕より速く動けるなんて……っ!? ああっ……身体がっ……消えてっ……い、嫌だっ……僕はっ……消えたく……な……」
リッチゴーストの姿が完全に消失する。
どうにか倒すことができたようだな。
古城に戻ると、真っ暗だった窓の外が、薄っすらと明るくなりつつあった。
リッチを倒したことで、この国に太陽が戻って来たらしい。
「やつを倒したのかい!?」
「見てみろ、外がどんどん明るくなってきてるだろ」
「本当だっ……ようやく……ようやくこの国に朝が……」
玉座の間の窓から差し込んでくる陽の光に、レインが泣き崩れる。
この日をずっと夢見てきたのだろう、慟哭する騎士たちもいた。
さらに街を徘徊していたアンデッドたちが、太陽光から逃げるように建物の中や地中に隠れていくのが見えた。
すぐには一掃できないかもしれないが、少なくとも昼間なら有利に討伐ができるはずで、いずれは人が住める環境が戻ってくるだろう。
……俺も従魔たちを使って、少しでも貢献するとしよう。
「君の……いや、君たちのお陰だ。本当にありがとう」
涙で目を真っ赤に充血させながら、レインが礼を言ってくる。
「これでそう遠くないうちに、他国に避難した人たちも戻ってくるはず。必ずこの国を復興させてみせるよ。ほとんどの王族の方が亡くなられたけれど、何とか国から脱出された方もいる。理想を言えば、ノエル様がいらっしゃったならよかったのだけれど……」
「ノエル様?」
「この国にリッチが現れたとき、まだ生まれて間もなかった第一王子殿下だ。王都にアンデッドが溢れかえる中、幸いにも生誕の儀式のために地方にいらっしゃったため難を逃れたんだ。ただその後、無事にバルステに入られたという話を聞いて、安堵していたのだけれど……三歳の頃に人攫いに遭われたそうで……一体今はどこにいらっしゃるのか……無事であられるのか……」
何だろう。
どこかで聞いたような話だな?
しかもノエルか。
十年ほど前に生まれて間もなかったのなら、今はちょうど十歳ぐらいである。
心当たりがありまくりだ。
「そういえば、勇者様はバルステで召喚されたのだったな? もし何か心当たりがあれば、どんな些細な情報でも構わないから教えてほしい」
「ああ、心当たりがあるぞ」
「……いや、さすがに他の世界からこの世界に来たばかりの君に、そんなことを言っても――え? ある?」
俺はレインを連れて、生活拠点に向かっていた。
一刻も早く会いたいというので、俺が彼を抱えて走っている。
「ななな、なんて速さなんだ!? 君は本当に人間なのか!?」
「【穴掘士】だから、穴の中だと速く走れるんだよ」
レイン一人だけなのは、このダンジョンのことをあまり大勢に知られたくないからだ。
エルフたちは樹海暮らしだし、外に話が広がる心配はないのだがな。
「よし、着いたぞ」
そうして生活拠点へと辿り着く。
「な、何なんだ、ここはっ!? 畑や果樹園があるかと思えば、キッチンやソファが置いてあるしっ……」
「一応さっき説明した通り、俺のダンジョンだ。もちろん絶対に他言無用だぞ」
そして俺は子供部屋からノエルを呼ぶ。
「あ、あの……僕に、何か御用が……?」
「ノエル様!」
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