第105話 いきなり重すぎるよなぁ

 おっかなびっくりやってきたノエルを見て、レインが叫んだ。


「ノエル様!」

「え?」

「間違いない……そのお顔、王妃殿下にそっくりでございますっ! ああ、こんなにも大きくなられて……」


 どうやらノエルは母親似らしい。

 うん、それはそうだろうな。


「あ、あの……あなたは、一体……?」

「はっ。……失礼いたしました。当然、何もご存じありませんよね」


 レインはその場に跪く。


「え? え? え?」


 訳が分からず動揺しているノエルに、レインは恭しく告げる。


「実はあなた様は、テスラ王国の第一王子、ノエル=ピエール=テスラ殿下なのでございます」

「ぼ、ぼくが王子……? な、何かの間違いじゃ……」

「いえ、間違いなどではございません。とある凶悪なアンデッドによって王国が滅ぼされた際、幸運にもバルステ王国に避難してこられたのでございます。ただその後、人攫いに遭い、行方が分からなくなっていたのです」


 レインの話に、後ろの子供たちから「どこかで聞いた話ね?」という呟きが聞こえてきた。

 俺もそう思う。


「直系の王子であるあなた様こそ、テスラ王国を復興させるための新たな王に相応しいお方! 今や散り散りバラバラになってしまった民たちも、あなた様の無事を知れば、きっとまた王国に戻ってくるでしょう!」

「え、あの、ちょっと……えっと……」


 レインは興奮しているのか異様なテンションだが、ノエルは狼狽えるばかりだ。

 俺は話に割り込む。


「ま、まぁ、本人は今までそんなのとは無関係に生きてきたわけだし、いきなり言われても困るだろう」

「た、確かに……君の言う通りだ……。の、ノエル様っ、申し訳ございません……っ!」


 というか、ただでさえ引っ込み思案なノエルだ。

 しかもまだ十歳。

 国王となって国の復興を託されるなんて、どう考えても責任が重すぎるだろう。


「ひとまずノエル様がご無事であったということは、仲間たちに伝えようと思う。無論、このダンジョンのことは誰にも話さない」


 そう言い残して、レインはいったん復興騎士団の拠点へと戻っていった。


 ちなみに彼にだけは、その拠点近くに作ったダンジョンの入り口を教えてある。

 廃墟となった街の非常に分かりにくいところにあるため、知っていないとまず見つけられないはずだ。


「あの……お兄さん……」

「ん? どうした、ノエル?」

「さっきの話……もう少し詳しいことを教えていただけませんか……?」


 やはり自分の出自が気になるのだろう。

 どこまで伝えてよいものかと少し悩んだが、俺は今回の一連の出来事も含めて、すべて話して聞かせることにした。


「そういうことだったんですね……なるほど……ぼくの生まれた国が……そんなことに……」


 聞き終えたノエルは、やはり少し戸惑いつつも、神妙に頷く。


「だがそんなに気負う必要はないと思うぞ? 王子として育ってきたのならともかく、完全に無関係な人生を送って来たんだからな」

「……そう、ですね。だけど、彼らはぼくに期待している……国王として、国を立て直してほしい、と」

「いきなり重すぎるよなぁ」

「確かに、重荷に感じているのは、確かです……でも……実は、少し嬉しいんです……」

「嬉しい?」

「は、はい……だって、ぼくは、何もできない人間で……誰からも期待なんてされなくて……そんなぼくが、必要とされるなんてっ……」


 真剣な顔でノエルは言う。


「もし本当に、ぼくなんかにそれが務まるんだとしたらっ……やってみたい、です……っ! ……い、今は、まだちょっと早いですけど……そのうち……」


 可愛らしい見た目だが、意外と芯の強い少年のようだ。

 と、そのとき。


「ノエルならできるよ!」

「わ、私もそう思います!」

「同意だわ。何だかんだでノエル、意外と男の子だし」

「どうかしらね? 王様になろうっていうなら、まずはハキハキと喋れるようにならないと話にならないわよ?」


 割り込んできたのは他の子供たちだ。

 ノエルの部屋で話をしていたのだが、どうやらみんなこっそり聞いていたらしい。

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