第102話 一度言ってみたかったんだよなぁ
無数のアンデッドで構成された腐肉の巨人。
それが剛腕を振り回した。
「……なっ!?」
それを躱したように見えた田中だったが、腕の中から飛び出してきた頭蓋骨がその腹部に直撃し、吹き飛ばされてしまう。
「がっ……くそっ……」
何度か地面を転がった後、壁に激突した。
「あはははっ! さすがの君も、打つ手なしのようだねぇ! それに……」
どうにか立ち上がった田中だったが、リッチがあることを指摘する。
「見てごらん? 今、君が攻撃を受けた箇所をねぇ」
「何だと……? っ……これは……」
田中が絶句したのは、飛んできた頭蓋骨が激突した腹部に、くっきりとした歯型が付いていたからだ。
「あはははっ! アンデッドに噛まれたらどうなるか、知っているかい?」
「まさか……」
「そう! アンデッドになってしまうんだよ! あはははっ! これで君も僕たちの仲間入りだねぇ! 何度死んでも生き返る勇者だけれど、死ななければ生き返ることはできないだろう? 君はこれからずっと生きる屍として、僕が可愛がってあげるよ! あははっ、あははははははっ!」
見ると、田中が噛まれた部分の肌が青く変色しているのだが、その範囲が少しずつ広がりつつあった。
「はっ……なら、オレがアンデッド化するのが先か、てめぇが消滅するのが先か、勝負ってことだなっ!」
しかし田中はむしろ楽しげに笑うと、腐肉の巨人に立ち向かっていく。
「おい、穴井! やつの身体に穴を開けろ! できんだろっ?」
「ああ!」
「狙いは一番分厚い、土手っ腹だ!」
すでに死神を倒していた俺は、田中に呼応するように腐肉の巨人との距離を詰めると、その腹部に穴掘り攻撃を連発した。
ズドドドドドドドドドドドッ!!
――スキル〈五連掘り〉を獲得しました。
穴の中と比べると威力が大幅に落ちていたが、それでも腐肉があまり硬くないこともあって、人間一人が通り抜けられる大きさの穴が、深々と空いた。
「何だとっ!?」
その腐肉の穴の奥。
そこに身を潜めていたリッチの驚愕した顔が見えた。
「でかしたっ!」
その穴目がけ、躊躇なく飛び込んでいく田中。
穴を閉じようと周囲の肉が蠢き出すが、田中がリッチに届く方が早かった。
「ああああああああああああああああああああっ!?」
リッチの断末魔の叫びが轟く。
同時にその状態を保てなくなったようで、腐肉の巨人の身体がボロボロと崩れていった。
腐肉が散乱する中に田中が倒れていた。
「大丈夫か?」
「穴井、オレを殺せ」
「っ?」
「放っておいたらアンデッドになっちまうからな。その前にオレを殺してくれ」
「田中……」
「……今の、一度言ってみたかったんだよなぁ」
「おい」
正直、あまりやりたくないが、どのみちバルステの王宮で生き返るのだ。
ここはこいつの言う通りにするしかない。
「くくっ、どうせならてめぇのその穴掘りでオレの頭を吹き飛ばしてくれよ?」
「……お前マジでどうかしてるぜ」
と、そこへレインたちが申し訳なさそうに近づいてきた。
「本当にすまない……ぼくたちのせいで……」
「はっ、だからオレたち勇者に任せておけっつっただろーが。ま、今さら説教しても仕方ねぇけどよ」
「……」
「それより、こいつをやるよ」
そう言ってどこに隠し持っていたのか、ボロボロになった本のようなものを取り出す田中。
……こいつ、もしかしたら収納系の能力か何かを持っているのかもな。
やたらナイフをたくさん持ってるなと思ってたが、それなら納得がいく。
【シーフ】だし、あり得ないことではない。
そして死んで生き返っても、収納してあるアイテム類は失われないのかも。
「……これは?」
「かつての騎士団長が遺した記録だ。こいつのお陰で、リッチの倒し方が分かったんだよ」
「まさか、父上の……?」
驚きつつもレインがそれを受け取る。
「おい、穴井、とっととやれ。そろそろ限界っぽいぞ」
「分かった。生き返ったら、金ちゃんの商会を訪ねろ。俺のダンジョンへの行き方を教えてくれるはずだ。それから俺のことは王宮に黙っててくれ。リッチを倒したのは、お前と復興騎士団だ。いいな?」
「うるせぇ、この状況であれこれ言うんじゃねぇよ。早く殺せ」
そうして俺は本人の希望通り、田中の頭を消し飛ばした。
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