第101話 悪趣味にもほどがあるだろ

「さあ、グリムリーパーよ、まずはそいつから冥途に送ってやるんだっ!」


 リッチが命じると、死神がレインの頭上で大鎌を振り上げた。

 レインはツタのようなもので身体を縛られ、まったく身動きが取れないような状況である。


「やめろっ!」

「あははっ、やめてほしいのかい? だったらこの僕の頭からその汚い脚をどけてくれるかなぁ?」

「っ……」


 田中が顔を歪める。

 もしここでとどめを刺さなければ、リッチが復活してしまうだろう。


 だがこのままだとレインが殺される。

 勇者である田中と違って、この世界の人間は一度死ぬと生き返ることはできないのだ。


 とはいえ、ここでリッチを復活させてしまって、田中や俺がやられた場合、復興騎士団だけ無事に帰してもらえる、なんてこともあり得ない。


「ぼくたちのことは気にするな……っ! 今ここで、そいつを殺すんだっ! そしてこの国を救ってほしいっ! そのためなら、死んだって構わない……っ!」


 叫んだのはレインだ。


「あはははっ、泣かせてくれるじゃないか。だけど君たち人間が、他人を見捨てるなんていう選択ができるかなぁ? 死に対するその覚悟を見た感じ、君は何度でも生き返ることができる勇者じゃなさそうだしねぇ?」


 リッチがそれを一笑する。

 しかもレインが勇者ではないと確信しているようだ。


 それに対して、田中は。


「……はっ、そうだな。そうすることにするぜ。あれだけオレが忠告しておいたのに、そのざまだ。てめぇらが死んだところで自業自得だろ」


 レインたちを切り捨てた。

 慌てたのはリッチである。


「ま、待てっ……冗談だろう? 君は彼を見捨てるつもりなのかい……?」

「運が悪けりゃな? オレがてめぇを片づけるが先か、あの死神がレインを殺すが先か。決して分の悪い賭けじゃねぇだろ」

「あ、あのグリムリーパーは僕が死んだら消えるわけじゃない! 君が見捨てたら、あの男が死ぬのは確定だ!」

「そうか。まぁそれならそれで仕方ねぇ。てめぇを殺した後、すぐにあの死神をやりにいけば、死んでも二、三人だろう。必要な犠牲だ。そもそもよ、仮にオレがここでてめぇをいったん解放してやっても、あいつらを大人しく逃がしてくれるとは限らねぇだろ?」

「そ、それは約束しよう! 交換条件だ! 彼らの拘束を必ず解く!」


 と、そのときだ。

 天井から田中の頭上に向かって、何かが降ってきた。


「田中っ! 避けろっ!」

「っ!?」


 俺の声でそれに気づいた田中が、咄嗟にその場から横に跳躍して逃げる。

 そのままリッチの頭部の上に落ちたのは、直径二十メートルはあろうかという巨大な肉塊だった。


「おいおい、何だ、こいつはよ……っ!?」


 強烈な腐乱臭を漂わせる謎の肉塊。

 よく見ると人間の頭や腕、足などが所々から飛び出している。


「あははははっ! 素晴らしいだろう!? こいつは僕の傑作品だ! 元人間だったアンデッドたちを集めて捏ねて作り上げたのさ!」


 肉塊に潰されたかと思っていたリッチの頭が、塊の奥から姿を現して哄笑を響かせた。

 さらに泣き別れた胴体の方も、その肉塊に吸収されていく。


「悪趣味にもほどがあるだろ……っ!」

「そこの彼らも、この作品の一部にしてあげるよっ!」

「っ!」


 死神がレインの首めがけて大鎌を振り下ろす。


 だがそれよりも早く、レインの拘束が外れた。

 俺が遠隔念じ掘りでツタを消し飛ばしたのだ。


「くっ……」


 間一髪で大鎌を躱すレイン。

 死神はすぐに追撃しようとしたが、今度はその大鎌の刃が根元から弾け飛んだ。


「田中っ、こいつは俺に任せておけ!」

「頼んだっ! つっても、この肉塊、どうやって倒すってんだよ……っ!」


 俺が死神の身体に順調に穴を開けていく一方、田中は肉塊でナイフを斬りつけていくが、


「無駄だよ! 中にいる僕には痛くも痒くもないねぇ!」


 肉塊の奥に身を隠してしまったリッチには、何のダメージも与えられないらしい。


「今度は僕の方からいかせてもらうとするよ!」


 リッチがそんな声を響かせた直後、肉塊から巨大な腕や足が生えてくる。

 そして気づけばそこに腐肉の巨人が出現していた。

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