第100話 あの女はどこに行った!?

 古城の玉座にいた最上級アンデッドのリッチ。

 黒い炎を生み出し、それがこちらに撃ち放ってくる。


「気を付けろ。こいつの炎は一度引火しちまったら、ちょっとやそっとじゃ消えねぇからな」


 そう注意を促しつつ、田中が駆け出す。


「マジかよっ」


 俺が慌てて黒い炎を躱すと、背後の壁に着弾する。

 田中はこの間にすでに、リッチとの距離を詰め、ナイフを投擲していた。


 しかしナイフは無人の玉座に突き出さる。

 リッチは宙へと舞い上がっていた。


「浮かんでやがる……」

「あははははっ! ネズミたちよ、歓迎しようじゃないか! いでよ!」


 空中に浮かび上がったまま、リッチが両腕を大きく開くと、部屋のあちこちに魔法陣が出現。

 召喚魔法だ。


 現れたのはスケルトンの兵士たち。

 剣や槍、それに弓など、装備しているものがそれぞれ異なっているため、なかなか厄介だろう。


「それ以前に、空中にいるリッチをどうやって倒すんだ?」

「はっ、こうすりゃいいだろうがっ」


 田中がスケルトン兵士を無視し、ナイフを何本もリッチに向かって投擲していく。

 宙を舞ってそれを躱すリッチだったが、


「っ……ナイフが曲がったっ?」


 田中の投げたナイフのうちの一本が空中で軌道を変え、リッチの脚に突き刺さる。


 ……ていうか、どこにあんな数のナイフを隠し持ってんだ?


「あはははっ、この程度の傷、一瞬で……なに? 再生しないだと? まさか、僕のかわいい眷属たちを、四体とも倒したというのか……っ!?」


 と、そこでリッチはあることに気が付く。


「っ? いない? あの女はどこに行った!?」


 確かに田中の姿が見当たらない。

 スケルトン兵士を倒しつつ俺も周囲を見回してみるが、どこにもいないのだ。


「ここだ」

「~~~~っ!?」


 田中がその姿を現したのは、リッチのすぐ頭上だった。

 いつの間に空中に……?


「死ねっ!」


 二本のナイフを振り上げた田中が、それを両側からリッチの首へと突き刺した。

 そのままぐるりとナイフを回転させると、リッチの首が宙を舞う。


 空中から落ちてきた田中は床に着地。

 一方のリッチは、頭部と胴体が泣き別れた状態で床に叩きつけられる。


「はっ、さっきのナイフはそっちに気を引かせるためのもの。そしていったん見失っちまったら、本気の隠密状態にあるオレの姿を見つけるのは絶対に不可能だ」


 どうやら俺もまた田中の姿を見失わせられていたらしい。


「くっ……再生がっ……遅い……っ!」


 顔を歪めるリッチの頭部が、再生しようとしているのか、ゆっくりと胴体に近づいていく。

 これでも異常な再生能力だと思うが、やはり四体の上級アンデッドを倒したことで格段に弱まっているらしい。


 スケルトン兵士たちが慌てて駆け寄ろうとするも、田中が蹴散らしてリッチの頭部を踏みつけた。


「さすがのてめぇも、これで頭を潰せば終わりだろ」


 足に力を込める田中。

 しかしそのときである。


 突然、俺たちが入ってきた重厚な扉が開いたかと思うと、何かがこの玉座の間へと乱入してきた。


 それはボロボロのマントを身に纏い、巨大な鎌を手にしたスケルトンだ。

 宙にふわふわと浮いていて、死神を思わせる姿である。


「ああん? 何だ、こいつはよ? 今さら仲間を呼んでも遅ぇぞ?」

「……ふふふ、彼らの姿を見てもそう言ってられるかなぁ?」

「なに?」


 その死神の影が蠢き出したかと思うと、そこから見知った人間たちが姿を現した。

 レインたち復興騎士団だ。


「す、すまない……捕まって、しまった……」

「おいおいおい、てめぇら、何でそこにいやがるんだよ!?」


 常に冷静だった田中が、初めて感情を露わにして叫んだ。


「ぼ、ぼくたちだって……戦える……そう思って……」


 どうやら田中の忠告を無視し、独自にこの古城を目指してしまったらしい。

 その途中で捕まってしまったのだろう。


「あははははっ! やはり君の仲間だったかっ! 殺さずに捕らえて連れてきてよかったよ!」


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