第99話 そいつが一番厄介でよ
二体目の上級アンデッドを倒した俺たちは、続いて王宮の北ある建物へ。
ここはどうやら王妃や、その候補である少女たちが住む後宮だったようだ。
「それもあってか、女のゴーストがよく徘徊してやがる場所でもある。ほら、時々それっぽい悲鳴が聞こえてくるだろ?」
田中が相変わらず楽しそうに言う。
「キャアアアアアアアアアアアアアッ……」
「……ずっといたら精神がおかしくなりそうだな」
三体目の上級アンデッドは、後宮内の食堂にいた。
長い髪のゾンビである。
眼球が零れ、腐乱した青い肌を晒している不気味なアンデッドだが、身に着けている服装から、かつては高貴な女性だったのではないかと推測できた。
手に魔法の杖を持っており、闇魔法を使ってくる強敵だった。
スカルドラゴンと同様、味方のゾンビを際限なく召喚してくる上に、喰らったら即死の可能性のあるデス魔法も使ってくる。
さらに影を操る攻撃は厄介で、受けるとしばらく身動きが取れなくなってしまうらしい。
もっとも、田中は難なく接近すると、首を掻き切って仕留めてしまった。
今までの上級アンデッドの中で、戦闘時間は最短だった。
「こいつの防御力は大したことねぇからな。守勢に回ると厳しいが、速攻でやっちまえばこんなもんだ」
最後の一体は、どうやら城の中心、主郭に当たる場所にいるらしい。
「そいつが一番厄介でよ。城の中を駆け回っている首なしのデュラハンなんだが、弱点はその首だ。つーか、首を破壊しねぇと倒せねぇ。だがその首もまた、城の中を飛び回ってやがってるからよ、決まった場所にいねぇから捜し回らないといけねぇんだ」
しかも主郭の一階までは俺のダンジョンから直接侵入できるが、二階や三階となると難しい。
「隠密できないてめぇは、ひとまず穴の中に隠れてろ。オレがどうにかデュラハンの頭部を見つけて、ぶっ飛ばしてくるからよ」
とのことだったので、俺はダンジョン内に待機することになった。
そうして待つこと、五分ほど。
田中が戻ってきた。
「よし、上手くぶっ潰してきたぜ」
「これで四体を片づけたってことだな」
「ああ。後は玉座にいるやつを倒すだけだ。とはいえ、さすがに強敵だからよ。場合によっては、てめぇにも力を貸してもらうぜ」
そして田中の先導で、玉座へと向かう。
階段で城の五階まで駆け上がると、広い廊下を通って大きな扉の前へ。
「行くぜ」
田中がその扉を力強く開けた。
玉座の間だけあって、かなり広い部屋が俺たちを出迎えてくれた。
玉座には一人の青年が座っていた。
いや、もちろん人間のはずがない。
よく見ると顔は青白く、まるで生気が感じられない。
しかし非常に整った顔立ちをしており、また今まで遭遇してきたアンデッドモンスターたちとは異なり、人間めいた衣服を着ている。
「よお、これで四度目だな?」
「ネズミが城内に入り込んでいると思ったら……また君かい。……前回は確実に殺したと思っていたんだけれどねぇ」
不愉快そうに足を組みながら、アンデッドはそう告げる。
見た目通り知能があるようだ。
「あいつがこの国を滅ぼした元凶、最上級アンデッドのリッチだ。あんな見た目だが、油断するんじゃねぇぞ」
田中が珍しく真剣な表情で言う。
「どうやら噂は本当だったみたいだねぇ。人間たちの中には、何度死んでも蘇ることができる〝勇者〟と呼ばれる者たちがいるって話……君がそれなんだねぇ。そっちのお仲間さんも同じかな?」
リッチはそうこちらに語りかけながら、ゆっくりと椅子から立ち上がると、いきなり大声で嗤い出した。
「あははははははっ! 完全なる不死だなんて、それは僕たちアンデッドですら実現できないことっ! ああ、羨ましいっ! なんて羨ましいんだっ! 羨まし過ぎて……」
次の瞬間、リッチの頭上に黒い炎が出現する。
「……何度でも何度でも殺したくなっちゃうじゃないかああああああっ!!」
黒い炎がこちらに向かって猛スピードで飛んできた。
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