第98話 あとは残った雑魚を一掃するだけだ
「オアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
地下牢中に響き渡る咆哮を上げるスカルドラゴン。
さらにそれに呼応するかのように、地面からスケルトンの剣士が次々と湧き出してくる。
「雑魚ども無視だ。どんだけ倒したところで、幾らでも湧いてきやがるからな。そしてこのスカルドラゴンの弱点は……」
「オアアアッ!!」
スカルドラゴンが振り回す長い骨の尻尾。
それをしゃがみ込んで躱しながら、田中は突っ込んでいったかと思うと、スカルドラゴンの巨体に飛びついた。
振り落とそうとするスカルドラゴンを余所に、田中はボルダリング選手も驚くような素早さで巨体を攀じ登っていく。
やがて頭部に到達すると、
「この唯一、骨化してねぇ、右目だ」
スカルドラゴンの赤い右目にナイフを突き刺した。
「オアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
悲鳴と共に暴れ回るスカルドラゴン。
すでに田中はその巨体から飛び降りて、距離を取っている。
しばらくしてスカルドラゴンが大人しくなると、再び身体に攀じ登っては、右目を攻撃していった。
それを何回か繰り返していると、今度はその右目が飛び出してくる。
拷問部屋の中を素早く飛び回る右目。
「はっ、逃げれると思ってんのかよ」
その右目へ、ナイフを投擲する田中。
吸い込まれるようにナイフは右目を貫き――ぐしゃり。
破裂した右目から周囲に液体が飛び散る。
それとほぼ同時に、スカルドラゴンが動きを止め、バラバラと骨が崩れていった。
「あとは残った雑魚を一掃するだけだ。まぁ別に放置してもいいんだがな」
スケルトン剣士が何体もいたのだが、田中はそれを歯牙にもかけなかった。
次々と瞬殺していき、あっという間に宣言通り一掃してしまった。
……強っ。
瞬時の判断力と、まったく無駄のない動き。
初見ではないとはいえ、考え得る限りの最短ルートで敵を撃破してしまった。
【シーフ】という、決して戦闘を得意とはしないジョブなのだが、そもそもステータス云々の問題ではなく、リアルな戦闘感覚がずば抜けているのだろう。
「よし、いったん穴の中に戻るぞ」
呆気に取られている俺を余所に、地下牢と繋がる穴に飛び込む田中。
俺も慌ててその後を追った。
「この穴、閉じることができるか?」
「ああ」
俺は素早く穴を閉鎖する。
「くくく、こいつはいいな。これなら戦闘を回避できるし、やつにも見つかり辛い。この調子でどんどん行くぜ。次は騎士団の訓練所だ」
地中を移動して、別のところから古城内に侵入。
そこはかつて、この国の近衛騎士たちが訓練に明け暮れた場所だったようで、武具などがあちこちに散乱している。
「二体目はあの鉄の扉の向こうだ」
重たい鉄の扉の先に行くと、そこは広い空間になっていた。
「ここで当時の騎士たちが、捕まえてきた魔物との実戦訓練をしてたみたいだぜ」
その空間の中心に、なぜか人間が立っていた。
いや、正確には全身鎧を身に着けた〝何か〟だ。
「こいつはもしかしたら、元は名のある騎士だったのかもしれねぇな」
田中がそう呟いた直後、その全身鎧がガシャガシャという音を立ててこちらに襲いかかってくる。
なるほど、リビングアーマーってやつか。
巨大な剣を手にした全身鎧に、田中が正面から立ち向かっていく。
豪快な斬撃を紙一重で躱しつつ、ナイフで鎧を斬りつけた。
ガキンッ。
「とまぁ、こんな感じで普通に攻撃しても、物理耐性が高すぎてダメージにならねぇんだが……」
ガキンッ……ガキンッ……ガキンガキンガキンガキンガキンガキンッ!!
田中は何度も何度も鎧をナイフで攻撃していく。
よく見るとすべての攻撃が鎧の右足だけに集中している。
ガキンガキンガキンガキンズガンッ!!
ついにその執念が実り、全身鎧の右足部分が粉砕した。
片足を失ってバランスを崩し、リビングアーマーが地面に倒れ込む。
「一点集中していれば、破壊することも可能だ。後はこの割れた右足部分から、聖水を注ぎ込んでやれば動かなくなる。外から聖水をかけただけじゃ効かねぇんだけどな」
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