第97話 ゾクゾクするよなぁ
「頼むっ……ぼくたちも同行させてくれっ!」
「やだぴょん」
やだぴょん……?
レインの懇願を、田中はそんな言葉で一蹴した。
「なぜだっ? ぼくたちだって戦力になれるはずだ! この国を取り戻すため、君と一緒に戦わせてほしい!」
「やだっつってんだろーが」
やはり田中は突っ撥ねる。
「理解できてねぇようだからはっきり言っておくが、てめぇらみたいにぞろぞろ集団で進軍するのは相手の格好の餌食なんだよ。無限に湧いてくるアンデッドどもを、いかに避けることができるか。それが古城に辿り着くための最善策だ。てめぇらがいたら足手まといでしかねぇんだよ」
と、そこで俺は「ん?」と思った。
確かに今までならそうかもしれない。
だが今回は俺がいるのだ。
ダンジョンを通って古城までいくのだから、レインたちが同行することに何の問題もないはずだった。
しかしそれを口にしようとしたところで、田中が「てめぇ余計なことを言うんじゃねぇぞ?」という顔で俺を睨んできた。
「てめぇらは大人しくここでおねんねしてろ。明日、オレたちが今度こそ元凶のアンデッドをぶっ倒してやるからよ」
「あれでよかったのかよ? 四体の上級アンデッドを倒すのに、少しでも戦力が多い方がいいんじゃないのか?」
翌日、古城に向けて出発の準備を整えながら、俺は田中に訊いた。
「うるせぇな。いいんだよ。前回オレは一人で三体やれたんだからな。もう一体も一度倒してるし、あいつらの手を借りるまでもねぇ」
正直こいつほど頑固な人間はいない。
説得しようとしたところで無駄なので、俺はそれ以上、何も言わなかった。
実は田中が仮眠をとっている間に、俺は従魔たちを使って、ダンジョンを古城の地下まで拡張させていた。
なので今日は真っ直ぐ古城に向かうだけだ。
「この上に城があるはずだ。……城のどのあたりに出るのがいいんだ?」
「土だけじゃなくて、硬い岩なんかも掘れるんだろ?」
「ああ」
「だったらまず地下牢だな。そこに一体目の上級アンデッドがいるはずだ」
そう言って、田中がポケットから紙を取り出す。
「こいつはオレが作った城のマップだ」
「お前が手書きで作ったのか……? ほとんど攻略本のマップじゃねぇか……」
「だいたい2000分の1ぐらいの縮尺だ。城内を探索したときにだいたいの寸法を記録しておいたんだよ」
相変わらず無駄に有能なやつである。
これで性格さえよければ……と思わずにはいられない。
「地下牢はここか。この上はたぶん、この中庭の辺りだろうから、こっちだな」
「ちょっと待て。てめぇ、地上の様子が分かるのか?」
「なんとなくな」
「……」
そうして地下牢の地下と思われる地点まで来た。
真っ直ぐ地上に出ようとするなら、螺旋状に掘っていくのが最適だ。
これなら位置がズレたりせずに済む。
「よし、繋がったぞ」
「センキュー、ちょっと確かめてみるぜ。おっ、間違いねぇみてぇだな」
軽く顔だけ出して外の様子を確認し、田中が満足そうに頷く。
そのまま俺たちは地下牢へと足を踏み入れた。
元から陰鬱な場所だったのだろうが、何年も放置されて、マジでお化けが出そうな雰囲気である。
いや、アンデッドの巣窟となっているのだから、出そうといより出るのだが。
「くくくっ、ゾンビ漫画みてぇでゾクゾクするよなぁ」
田中は楽しそうだ。
「目的のアンデッドはこの奥だ。拷問部屋として使われてたらしく、この地下牢の中でも指折りのホラースポットだぜ」
半開きになった鉄格子の扉から、俺たちはその拷問部屋に突入した。
あちこちに置かれた拷問器具。
付着した黒い染みが生々しい。
そんな部屋の中央に横たわっていた、巨大な骨。
それが俺たちの侵入に気づいたように、ゆっくりと動き出した。
「来るぜ。こいつが一体目の上級アンデッド……スカルドラゴンだ」
やがて完全に身を起こしたそいつは、スケルトンと化したドラゴンだった。
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