第96話 そういう興奮はゼロなんだが?
「やつらがこの国を救えねぇ最大の理由は、正面から挑もうとしている点だ。この国はもはやアンデッドの巣窟だからな。進むたびに次から次へとアンデッドが襲い掛かってきやがる。馬鹿正直にそいつらの相手をしてりゃ、いつまで経っても目的地に辿り着けやしねぇよ」
田中が呆れたように言う。
なるほど、確かにこいつの言う通りかもしれない。
ただ、普通は隠密が使える人間は戦闘力が低い。
そういうメンバーだけを揃えて挑んだとしても、結局は返り討ちに遭うだけだろう。
「要するにオレたちのような勇者様に任せておけって話だ。そしてオレにはすでに、これまでの三度の戦闘で、やつの倒し方を見つけ出している」
「本当か?」
どうやらすでに三回も戦っているらしい。
「ああ。一度目はオレの攻撃を受けてもすぐに再生しやがって、為すすべなくやられちまったがな。アンデッドなら聖水が効くはずと思って試してみたが、残念ながらそれもほとんど効果なしでよ。ちなみに最後はやつが操る昆虫系のアンデッドの群れに、生きたまま喰われちまった。くくく、しかも一匹一匹が小さくてよ、身体の中から食い荒らされて――」
「いや詳しく説明しなくていいから!」
正直、想像すらしたくない。
「ただ、二度目は戦う前に城内を探索しまくった。こういう場合、大抵はどこかにヒントが隠されているものだからよ」
「それはゲームとか漫画の話だろ?」
「そして見つけたんだ。やつと戦って敗れたらしい当時の騎士団長が、死ぬ間際に残した記録をよ。そこにやつの弱点が書いてやがったんだ」
本当にあったのか……。
「で、その弱点というのは?」
「ああ。城内にいる、四体の上級アンデッドモンスター。どういう原理かは知らねぇが、どうやらこいつらを全滅させちまえば、やつの異常な再生能力が機能しなくなるらしい。生憎とその二度目は、一体を倒したところで見つかっちまった。そして三度目の前回は、残りの三体を倒せたんだがよ。どうやら二度目に倒した一体が復活していたらしく、やつにまたロクにダメージを与えられねぇまま、火だるまにされちまったってわけだ。時間を置くとダメらしいな」
だが、と田中は続けた。
「今回はてめぇがいる。作戦はこうだ。まず、古城の地下までてめぇのダンジョンを繋げて、そこから城内に侵入する」
どうやら俺が協力することは決定事項らしい。
「そしてオレが四体のアンデッドどもを手早く仕留めていくが、途中で万一やつに見つかっちまったら、そのときはてめぇの出番だ。素早く穴を掘って、ダンジョン内に逃げ込む」
万一その最上級アンデッドが追いかけてきても、ダンジョン内は俺のフィールドだ。
かえって好都合だろう。
「そうしてやつを避けつつ四体の上級アンデッドどもを倒したら、今度こそリベンジだ」
作戦の決行は翌日。
その日は教会の部屋で休むことになった。
「……何で俺はまた縄で縛られて、床に転がされてるんだ?」
「そうしないと逃げるだろうが」
「逃げねぇよ!」
この部屋は田中一人に使ってもらって、俺はダンジョン内で休もうと思っていたのだが。
それほど広い部屋ではないし、そもそも田中は一応、あくまで一応だが、女子だからな。
「くくくっ、密室で美少女と二人っきりだからって、そう興奮するんじゃねぇよ」
「そういう興奮はゼロなんだが?」
まぁ、念じ掘りを使えばこんな縄ぐらい簡単に切断することができるし、田中が寝たらダンジョンに戻ることにしよう。
トントン。
そのとき部屋のドアがノックされた。
「ちょっといいだろうか」
入ってきたのはレインだ。
彼は相変わらず縄で縛られた俺を見て、
「……まだそのままなのか。もしかして、そういうプレイ……?」
「断固として違う」
レインの盛大な勘違いを、俺ははっきりと否定する。
「それより、てめぇ何の用だ? オレはそろそろ休みてぇんだがよ?」
「……お願いがあるんだ」
思いつめたような顔でレインはそう切り出す。
「恐らく君はまたあの古城に挑むのだろう?」
「そうだが?」
田中が面倒そうに頷くと、レインは何を思ったか、その場に膝をついた。
そして深々と頭を下げながら懇願したのだった。
「頼むっ……ぼくたちも同行させてくれっ!」
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