第94話 オレに任せておきゃいいんだよ

「自分より格上の魔物や推奨レベルを超えたダンジョンに挑むのが楽しいんじゃねぇか。異世界に来て、無限コンティニューが可能な環境で、安全を確保しながらのプレイとか、オレからすれば意味不明だぜ」

「まぁ、そういうのは簡単だろうが、実際には難しいものだと思うぞ?」


 田中のように頭のネジがぶっ飛んでいるやつでなければ、きっと本能が拒絶するだろう。


「ただ最初に召喚された場所でしか復活できねぇってのは、マジで運営がいたら抗議したいところだぜ。お陰で何日もかけてまた元の場所に移動しなくちゃならねぇ。最初の方はまだ近場の冒険だったからいいけどよ、遠くなればなるほど、容易には死に戻りができなくなってきやがった」


 確かに移動は面倒だ。

 ゲームだったら必ず転移システムなどが用意されているだろうが、生憎とまだこの異世界でその仕組みを見かけたことがない。


「これまでに何度か古城に乗り込んで、それらしいアンデッドも見つけたんだがよ。バルステから遠いせいで、マジでクソ面倒くせぇんだよな。今回はやつの魔法で火だるまにされて死んじまって、ようやくまたここまで戻ってきたところだ」

「なっ、元凶のアンデッドのところまで辿り着いただって……っ!?」


 レインが信じられないとばかりに叫んだ。


「ぼ、ぼくたち復興騎士団でさえ、まだ一度もやつの元まで辿り着けていないというのに……っ!」


 どうやら田中一人に記録を抜かれてしまったらしい。

 ううむ、別に田中の肩を持つわけではないが、確かに何度やっても彼らの目標を達成するのは難しそうだな。


「ひゃはははっ! だから言ってるじゃねぇか! てめぇらじゃ無理だってよ!」

「お前もそうやって無駄に煽るんじゃない」


 そんな俺の忠告を無視して、田中はレインたちに命令口調で言う。


「とにかく、オレに任せておきゃいいんだよ。んで、今日のところは移動で疲れたからよ、また休ませてもらうぜ。もちろんちゃんと食い物も用意しておけよ?」

「っ……」


 実際のところ、勇者に頼るしかないことを理解しているのかもしれない。

 悔しそうに顔を顰めつつも、レインは田中の要求を拒絶することはなかった。


 そして田中がいつも使っているという教会内の個室の床に、俺は縄で縛られたまま転がされる。


「……そろそろ解いてくれよ」

「まぁ待て。その前に一つ、てめぇに聞いておきたいことがあってよ」

「?」


 首を傾げる俺に、田中が自分の顔をぐっと近づけてきた。


「なぁ、お前、穴を掘るだけじゃねぇだろ? それだけじゃ、そこまでステータスを上げることは不可能なはずだ。一体何があった? 教えてくれるよなぁ?」


 不自然に優しい口調で問い詰めてくる。

 それがかえって恐ろしくて、背筋に寒気が走った。


「……何のことだか?」

「しらばっくれようなんて思うんじゃねぇぞ? もし黙秘したり、嘘を言ったりしやがったら――」


 どこからともなくナイフを取り出す田中。


 俺を脅して吐かせるつもりだな。

 しかも田中のことだ、脅しどころで済まないだろう。


「こいつをてめぇのケツ穴にぶち込んで、ハジメテを貰ってやるぜ? くくくっ、どんな声で哭いてくれるかなぁ?」

「いやそこまでは想像してなかった……っ! 鬼畜にも程があるだろ!?」






 仕方なく俺は洗いざらい白状した。

 こいつには嘘を吐いたところで見抜かれるだろうと思ったので、偽りない真実を語った。


「は? 嘘つくんじゃねぇよ? そんなに盛るんじゃねーよ、タコが」

「盛ってないから!」


 そうしたら嘘つき呼ばわりされてしまった。

 理不尽すぎやしないか?


「……じゃあ、見せてやるから。付いてこいよ」

「ああ、見せてもらおうじゃねぇか。嘘だったら、マジでてめぇのケツ穴このナイフでほじくり回してやるからな」

「やめろ……想像しただけで、お尻がきゅっとなってしまう……」


―――――――――――――

『万年Dランクの中年冒険者、酔った勢いで伝説の剣を引っこ抜く』の漫画版9巻が、今月7日に発売されました!

https://magazine.jp.square-enix.com/top/comics/detail/9784757589322/

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る