第92話 学園ラブコメができねぇだろうが
田中兎。
一言でいうと、クレイジーな女子高生だ。
入学初日に何を思ったか、最近は男子でもあり得ない時代錯誤なリーゼント頭で登校してきた彼女は、全校生徒たちの前でいきなり宣誓。
「オレがこの学校でてっぺん獲ってやる。自分が一番強いと思ってるやつ、後で勝負な。ボコボコにしてやるからよ」
そして実際に挑んできた上級生の男子たちと喧嘩し、連戦連勝してみせると、番長になるわけではなく、むしろ翌日にはバッサリ髪を切って普通のショートカットで通学してきた。
「一度やってみたかったんだよ、80年代のヤンキー漫画」
理由はただそれだけだったらしい。
ボコられた先輩たちが可愛そうだ。
その後も数々の問題行動を起こした。
無数に繋げた傘を手に屋上から飛び降りて着地するという子供の憧れを実現するという下らないものから、化学実験と称して校庭で自作の爆弾を爆発させて巨大なクレーターを作るという危険なものまで。
本人だけならまだいいが、周りを巻き込むことも多い。
俺も一度こいつに誘われて、真夜中の学校でなぜかストーンサークルを作る手伝いをさせられたことがあった。目的は未だに分からない。
問題を起こす度に当然ながら教師が激怒し、保護者からもクレームが寄せられたのだが、なぜか退学になることはなく、いつも停学処分止まり。
噂では彼女の父親が文科省の偉い人らしく、そのせいで厳しい処分ができないとかなんとか。
授業には来たり来なかったりだが、頭だけはめちゃくちゃいいようで、常に学年トップどころか、全国模試でトップクラスらしい。
「そもそも兔殿は高校に行くような器ではないでござろうに。なぜ通っているでござるか?」
そんな質問をしたのは金ちゃんだ。
「あ? てめぇ、高校に通わねぇと、学園ラブコメができねぇだろうが」
田中の解答に、きっと誰もがこう思っただろう。
お前に学園ラブコメなんて無理に決まってんだろ、と。
「学園ホラーとかも経験しておきてぇしな。あと、スポ魂とか、生徒会を舞台に下ネタ言い合ったりとかもしてぇし」
……どうやらこいつの頭の中は、完全に漫画に汚染されているらしい。
「クラスごと異世界召喚とかもやりてぇな!」
俺もこのときはただの妄想女と一蹴していたのだが、まさか本当に現実になってしまうとはな。
むしろ異世界召喚されたの、こいつのせいじゃないか?
そしてご希望の異世界召喚された後も、相変わらず田中はクレイジーだった。
美里が言っていたが、死んでも本当に生き返るかどうか確かめるため、自分の心臓をナイフで刺したらしいし。
できることなら、こいつにだけは会いたくなかったのだが――
「……ん? おいおい、そこにいるの、もしかして穴井じゃねぇか?」
気づかれた!
だが事前にこの可能性を想定していた俺は、すでに行動に移っていた。
地面を蹴って、全速力でその場から逃げたのである。
そして近くの建物の陰に飛び込むと、瞬時に地面に穴を掘った。
無論、このまま穴の中に逃げ込んでは、すぐに見つかって追いかけられてしまう。
「だが穴が幾つもあればどうだ」
いつの間にかできるようになった複数同時に掘る力を使い、一気に十個もの穴を作り出すと、そのうちの一つに飛び込んだ。
そこからはとにかく猛スピードで、地面と水平方向に穴を掘り進めていく。
一つ一つ穴を確認して手間取っている間に、このまま街の外まで穴を掘り進め、逃げてしまおうという作戦だ。
「ほとんど走りながら掘り進められるようになっているし、これならさすがに追いつかれるはずもな――」
「おいおい、てめぇ、なかなか面白ぇ能力じゃねぇか」
「――っ!?」
背後から聞こえてきた声に戦慄する。
まさかと思って振り返った俺のすぐ目の前にいたのは、ニヤニヤと笑う田中だった。
「嘘だろ……?」
「くくくっ、このオレから逃げれるとでも思ったのかよ?」
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