第90話 彼は命の恩人だ
勇者だと告げると、騎士団員(?)たちの空気が変わった。
突然の敵対的な雰囲気に俺が戸惑っていると、
「やめろ、お前たち。彼は命の恩人だ」
レインがそれに気づいて咎めてくれた。
さっき団長だと言っていたが、俺とそう変わらないくらいの歳だというのに、集団を率いる立場にあるらしい。
もちろんこの集団の中でも若い方だ。
「すまない。君がそうだというわけじゃないけれど、少し勇者にはよくないイメージがあってね……」
「そうなのか?」
やはり安易に勇者だと言わない方がよかったかもしれない。
「とにかく、助けてもらったお礼がしたい。ただ、負傷者も多くて、ぼくたちはいったん拠点に戻ろうと思っている。もし君がよかったらだけれど、一緒に来てくれないかい?」
との誘いを受けて、俺は彼らについていくことになった。
正直断りたかったのだが、さらに勇者へのイメージが悪化しそうだし、何よりアンデッドばかりのこの地域の情報を知りたかった。
その拠点までは徒歩での移動だった。
「本当は馬で移動できれば早いのだけれど……生憎とアンデッドだらけの今のこの国では、馬を守りながら戦うのが難しくて、大半がやられてしまったんだ」
しかもアンデッドの中には、噛みつき攻撃をするものが多いという。
そして噛みつかれたまま放置すると、アンデッドになってしまうらしく、騎馬として利用していた馬もその被害に遭ったそうだ。
「一応、すぐに魔法やアイテムで治癒すれば大丈夫だけれど、治癒が遅れてアンデッド化が進んでしまったら、もう元には戻らない」
まるでゾンビ映画の世界だな。
生きたままアンデッドになるとか、想像するだけでゾッとする。
「ところで、テレス王国っていうのは?」
「そうか。君は異世界から来た勇者だから、この世界のことには詳しくないんだね。テレス王国というのは、かつてこの地域にあった小さな国のことだ。ただ、その歴史は古くて、隣国のバルステ王国よりもずっと昔からある国だったんだ。あまり豊かではなかったけれど、牧歌的で優しい人が多く、とても平和な国だったよ。でも……」
今から十年ほど前。
突如として現れた最上級アンデッドによって、その平和な国は太陽を奪われた。
一体いかなる魔法かは分からないが、永遠に朝がこなくなり、夜が支配する世界となった。
さらに無数のアンデッドが湧き出してきて、村も街も次々と滅ぼされていく。
ちなみにアンデッドは太陽の光が弱点で、日中には地中や建物に逃げ込んで息を潜めているらしい。
「王都は壊滅。王族の方々もその多くが命を奪われた。人々の大半は他国に逃げ延びたけれど……それから十年が経っても、この有様だからね。アンデッドの巣窟と化したこの国に、帰ってくることもできない」
不思議なことにその〝夜〟の領域は、ある一定範囲から広がってはいないという。
国境を接していたバルステ王国も、国境沿いに防壁を築き上げて常に警戒しているとはいうが、今のところ被害が及んではいないそうだ。
「当然、ぼくたちのようにこの国に残った者たちもいる。そして十年間、何もせずにじっと指を咥えていたわけじゃない。国を取り戻そうと、幾度となくその元凶のアンデッドを倒そうとしてきた」
しかし結果はその度に敗北を喫し、撤退させられてきたという。
「やつがかつての王都、王宮の奥にいることまでは分かっているんだ。でも、王都に近づけば近づくほど、凶悪なアンデッドが徘徊していて……」
あのケンタウロスのスケルトンのようなアンデッドが、うようよしているそうだ。
「一方こちらは年々、戦力が減っていくばかり……この復興騎士団も、騎士団の残党たちで作ったものだけれど、若い人間が増えないから、だんだんと高齢化が進んできているし……」
ううむ、どうやらなかなかジリ貧の状況のようである。
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