第89話 穴を掘るのが得意なんだ

 明らかに生きた人の声が聞こえてきたのは、謎のアンデッド領域の探索を続け、さらにまた別の無人の街を発見した後のことだった。


「くっ……こんなところで負けるわけにはっ! がぁっ!?」

「レイン団長っ!」

「だ、ダメだっ……強すぎる……っ!」


 人間もいるのか。

 というか……もしかして戦っている?


 衝撃音などに交じって響いてくる怒号。

 明らかに何かと交戦しているような雰囲気である。


 声がする方に行ってみると、そこにいたのは武装した十五人ほどの集団だった。


「戦っているのは……見たことないアンデッドだな」


 その集団がやり合っていたのは、スケルトン系のアンデッドだ。

 だがその骨の形状からして、人間でも動物でもない。


「というか、人間と動物がくっ付いている?」


 人の上半身に対して、下は馬のような四足歩行の身体である。

 身の丈は四メートルほどで、全長は五メートルを超えているだろう、かなりの巨体だ。


「ケンタウロスのスケルトンってところか。にしても、めちゃくちゃ苦戦してるな」


 生きた人間たちが、その巨大スケルトンに圧倒されている。

 スケルトンは人間の上半身が、ハルバード――槍斧とも呼ばれる武器を両手に持っており、馬の身体で駆けながら、それを豪快に振り回して武装集団を斬り飛ばしていく。


 人馬一体といったその動きに、まったく対応できていない。


「仕方ない。加勢するか」


 俺は背後から回り込むように、その巨体スケルトンに近づいていった。

 幸い武装集団に意識が集中しているようなので、こちらには気づいていない。


「まずは邪魔な動きを封じるべきだな」


 俺はタイミングを見計らって、馬の後ろ脚が接着している地面を一気に掘った。


「~~~~ッ!?」


 馬のお尻の方が穴に落ちて、前脚と人の上半身部分が縁に引っかかるような体勢に。

 こうなると人間が仰向けに寝ている感じにも見えるな。


 しかも馬の身体の方が重たいせいか、その状態から起き上がることができないでいる。

 なんだかかなり間抜けな姿だ。


「何が起こった!?」

「おい、あそこに何かいるぞっ!?」

「新手のアンデッドか!?」

「いや、見た感じ、生きた人間だ。だがなぜこんなところに……?」


 武装集団が俺に気づいて警戒している。


「それよりまずこいつを倒した方がいいと思うぞ」


 俺はそう注意して、彼らの意識をスケルトンに向けさせる。

 どうにか強引に穴から這い出そうとしていた。


「い、一斉攻撃だっ!」

「「「おおおおおっ!!」」」


 武装集団が雄叫びを上げて、スケルトンに集中砲火を浴びせる。

 先ほどのように馬の機動力を生かして逃げ回ることができないスケルトンは、成す術もなくその骨の身体を破壊されていき、やがて完全に動かなくなってしまった。


「……こ、この穴は、君がやったのか?」


 声をかけてきたのは、集団の中でもかなり若い男だった。

 中性的な顔立ちのイケメンで、年齢は俺とそんなに変わらないかもしれない。


「ああ。穴を掘るのが得意なんだ」

「穴を掘るのが得意……? と、ともかく、君のお陰で助かったよ。あのままでは全滅させられていたかもしれない」


 苦戦を物語るように、集団はボロボロだった。


「ぼくの名はレイン。テレス王国復興騎士団団長のレインだ」


 テレス王国復興騎士団……?


「俺はマルオ。……ええと」


 名乗られたので名乗り返したが、名前だけでは明らかに怪しいよな。

 向こうが立場を明かしているだけに、なおさらだ。


 冒険者ギルドに登録していたら、冒険者って言えるんだが。


「……一応、勇者だ」


 仕方なくそう告げると、


「勇者っ? 君は勇者なのか……っ?」


 驚くレインに、ざわつく武装集団。

 いや、騎士団か。


「勇者だと?」

「こいつも……」


 ん、何だ?

 ちょっと敵意のようなものを向けられている気が……。


 もしかして勇者ってこと、言わない方がよかったのかもしれない。


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