第88話 人がいないんだったら
「ん、何だ? この上……やけにどんよりとした空気だな」
いつものようにダンジョンの拡張作業に精を出していると、地上の気配が変化したのを感じ取った。
どうやらこれも【穴掘士】のスキルの一つらしく、地上のことが感覚で分かってしまうのだ。
生活拠点からは、南西の方向にかなり進んだあたり。
地図によると、すでに王国の領地から外れているような場所かもしれない。
地上に出てみると、思っていた以上に薄暗い世界が広がっていた。
「まだ日中のはずだよな? 曇っているにしても、さすがに暗すぎないか? ほとんど夜のようだが……」
ただ暗いだけではない。
なんとなく辺り一帯に嫌な気配が漂っていて、今すぐ穴の中に戻りたくなるほどだ。
と、そのときである。
突然、地面がボコボコと盛り上がってきたかと思うと、手が飛び出してきた。
「っ!?」
大地から生えてきた手に驚いていると、さらに頭部、胴体、そして足――
「あ~う~あ~」
「なるほど、アンデッドモンスターか」
不気味な呻き声と共に地面の中から這い出してきたのは、腐乱した人間、ゾンビだった。
風に乗って悪臭が漂ってくる。
「気持ち悪っ……」
ズドンッ。
念じ掘りで頭部を消し飛ばす。
するとゾンビはその場に倒れ込んだが、それで動きが止まったりはしなかった。
頭部が消失したというのに、そのまま這ってこちらに近づいてくる。
「頭をやっただけじゃ死なないのか。いや、死んではいるんだろうけどさ」
仕方ないので足や腕も消してやると、ようやく動きを止めた。
……まだ胴体がぴくぴく動いているが。
さらにしばらくこの辺りを散策していると、何度もアンデッドモンスターに遭遇した。
骨だけの身体で襲い掛かってくるスケルトンや、包帯ぐるぐる巻きのミイラなどといった人型のアンデッドに加えて、カラスや狼、熊のゾンビなど動物タイプのアンデッドもいた。
「あああああああああああああっ」
「って、ゴーストまでいるのかよっ!」
悍ましい声を響かせながら、身体が透けた幽霊タイプの魔物が襲いかかってくる。
この手の魔物には物理攻撃が効かないというのが相場だ。
恐らくは俺の穴掘り攻撃が通じないだろう。
そう思いつつも、一か八かで試してみる。
「あれ? ゴーストの腹に穴が空いたぞ?」
さらに二撃目三撃目と喰らわせると、その度に透けた身体の一部が消失していく。
ゴーストらしく痛みなどまったく感じないようで、気にせず飛びかかってくるものの、こちらも気にせず攻撃を続けていたら、完全に消え去ってしまった。
「倒せてしまったな。ちょっと面倒だったけど」
どうやら俺の穴掘り攻撃は、ゴーストのような実体のない相手にも効くらしい。
――スキル〈非物質掘り〉を獲得しました。
「ん? あれは……」
と、そこで俺は遠くに街らしきものを発見する。
近づいてみると、街を囲む防壁も家屋もボロボロで、とてもではないが人が住んでいる気配はない。
「う~あ~」
「いるのはアンデッドだけか」
アンデッドモンスターしかいない廃墟。
なかなか背筋が寒くなるような環境だが、普通に倒せてしまうせいか、大して怖さは感じない。
「人がいないんだったら、誘き寄せ作戦が使えるな」
従魔たちを地上に放って、魔物をダンジョンの中に誘き寄せてから倒す。
ダンジョンポイントを稼ぐための有効な手段だ。
ただ、今まで何度もあったように、間違ってダンジョンに人が入ってきてしまう危険性があった。
そのためできる限り場所を絞って行っているのだ。
「あまり俺のダンジョンのことを知られたくないからな」
ちなみにバルステ大樹海は、魔物も多くいる上に立ち入る人間が非常に少ないので、これ以上ない場所だった。
この謎のアンデッド領域も、それに並ぶ有力な地域かもしれない。
「念のためもう少し探索してみるか」
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