第87話 大袈裟だな

 その日、天野たちがダンジョンにやってきた。

 クラス一のイケメンにして脳筋、天野正義がリーダーをしている四人組で、全員がドラゴン級の勇者たちで構成されたパーティだ。


 しかしなぜか沈鬱な顔をしているので、何かあったのかと思っていると、


「この子たちを、返却しようと思って……」

「くるる……」


 哀しそうに鳴いたのは、以前、天野にあげたエナガルーダだ。

 すっかり天野に懐いたらしく、肩に止まって頬にすり寄っている。


「ええと、どういうことだ?」

「さすがにこれ以上、この子たちを連れて冒険をするのは難しいと思ったんです」


 俺の幼馴染みでもある住吉美里が言う。

 彼女にはポメラハウンドを、そしてギャルの神宮寺詩織にはアンゴラージをプレゼントしていた。


 なお、最後の一人、教師の大石諭史には何もあげていない。


「私たちもレベルが上がってきて、戦う魔物も強くなってきました。それ自体は良いことですけど、そのせいでこの子たちが危険に晒されることも多くなってきてしまったんです」

「……なるほど」


 彼らにあげた魔物たちは、逃げ足こそ速いものの、戦闘力は皆無だ。

 弱い魔物が相手ならともかく、強い魔物との戦闘中に、運悪く流れ弾でも喰らってしまったら、それだけで死んでしまいかねない。


「だったら、魔物強化を使って強くさせてやろうか? まぁちょっとデカくはなってしまうが」

「いえ、それも難しいんです。実は、当初は普通に連れ歩いていたので、ちょっとした話題になってしまっていたんですが、そのせいで危ない人間に狙われるようにもなってしまいまして……」


 どうやら希少な魔物と考えられ、連れ去ろうとする者が現れたのだという。

 それ以来、できるだけ街中では姿を隠すようにしているそうだ。


「このサイズなので隠せますけど、大きくなるとさすがに厳しくて」

「そういうことか」


 とそこで、神宮寺がいきなり叫んだ。


「やっぱごらたんと別れるなんていや~~っ! ずっと一緒に居たい~~っ!」

「ぷぅ……」


 アンゴラージを抱き締め、涙まで流している。

 ごらたんというのは名前らしい。


「ここに来ればいつでも会えるんだし、大袈裟だな」

「そう言う問題じゃない~~っ! この子と一緒じゃないと眠れないし! 冒険もしたくない~~っ!」


 散々渋りまくった神宮寺だったが、最後は天野や美里の説得もあって、どうにかごらたん、もといアンゴラージを手放すつもりになったようだった。


「うぅ……ごらたん、また会いにくるからねぇ……」

「ぷぅぷぅ!」

「がるるも、必ずまた会おう!」

「くるる!」

「……ぽーちゃんも、元気でいてください。絶対また来ますから」

「わうわう!」


 ……天野と美里も名前を付けていたらしい。


 うーん、図らずも重大な役目を押し付けられてしまったようだ。

 この様子だと、もしこのモフモフたちに何かあったら殺されかねない。


 俺からすれば死んでも代わりはいくらでも作れるし、個体の違いなんて普段まったく意識していないのだが。


 なお、これから彼らはとあるダンジョンに挑むつもりらしい。


「『試練の塔』と呼ばれ、古の大賢者が作り出したとされる、非常に珍しい人工のダンジョンなんです」


 そこには希少な装備やアイテムが数多く眠っているようで、普段は立ち入りができないよう、厳重に封鎖されているという。

 だが彼ら勇者パーティのこれからの冒険に必要だろうと、特別に王宮が立ち入りを許可してくれたそうだ。


「無事に戻ってこれたらまた来ますから……女の子を増やしたりしないようにしてくださいね?」


 ……言えない。

 最近また一人、女性の住民が増えたということなんて。


 幸いシャルフィアは今、子供たちとプールの方で遊んでいるので、見えるところにはいない。


「あ、ああ、もちろんだ」


 俺はただ力強く頷いておく以外になかった。

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