第85話 わざわざ食材を運ぶ必要もないだろ

「何だ、この穴は……? 街の近くにこんなものあったか?」

「分かりません。かなり奥まで続いているようですが……」


 モルガネを拠点として活動している、冒険者パーティ。

 男女四人組からなる彼らは、とある依頼をこなすため、目的地へと向かっているところだった。


 そんな折、たまたま謎の穴を発見したのである。

 入り口の付近は下り坂になっていて、大きさは大人が立って歩いても問題なく通れるくらいあった。


 好奇心の強いメンバーの一人が、穴の奥を覗き込む。


「面白そうっすね! ちょっと入ってみていいっすか!」

「魔物の巣かもしれん。気を付けろよ」


 警戒しながらも一行はその穴に足を踏み入れた。

 大きな盾を持つメンバーを先頭に、穴の奥へと進んでいく。


「む、行き止まりか?」

「いや、左右に道が繋がっている。T字路になっているようだ」

「しかもこの道、かなり広いっすね?」


 行き止まりかと思いきや、左右に道が続いていた。

 それもここまで歩いてきた穴より天井が高く、横幅も大きい。


「それにしても、めちゃくちゃ真っ直ぐな洞窟だな……? 自然にできたとは思えないぞ」

「ってことは……ダンジョンの可能性もあるってことっす?」


 と、そのときである。

 索敵能力に長けたメンバーが、いきなり叫んだ。


「ぜ、前方に何かいます……っ! しかもこっちに近づいてきています……っ!」

「何だとっ? くっ、魔物かっ?」


 すぐさま迎え撃つ陣形を整える一行。

 その素早さは熟練の域に到達していた。


 そんな彼らの前に、奥から姿を現したのは。


「ぶひぶひぶひぶひ」

「「「何だこいつ!?」」」


 全身毛むくじゃらの謎の魔物だ。

 鳴き声からして豚の魔物のようにも思えるが、冒険者として様々な魔物と遭遇してきた彼らであっても、見たことも聞いたこともない。


「気を付けろっ! 恐らく突進力に長けたタイプの魔物だ!」

「はっ……トリケラライノゥの突進すら受け止める、俺のガードスキルにかかれば――」

「ぶひっ」


 ドオオオオンッ!!


「――あばっ!?」

「「「~~~~っ!?」」」


 大盾を構えて魔物の攻撃を受け止めようとした仲間が、あっさり跳ね飛ばされて後方に消えていった。


「に……」

「「「逃げろおおおおおおおおおおおおっ!」」」


 一瞬で敵わない相手だと理解した彼らは、踵を返して走り出す。

 この素早い撤退判断も、冒険者にとって必要不可欠な能力だろう。


 途中、倒れた仲間を回収しつつ、先ほどのT字路から元の道へと駆け込む。

 そこからはかなり狭くなっているので、あの大きさの魔物ではそう簡単に追ってこられないだろう。


 背後から追いかけてくる気配はなかったが、彼らはそのまま急いでその謎の穴から脱出。

 さらに十分な距離を取ったところで、ようやく安堵の息を吐いたのだった。


「さすがにもう大丈夫そうですね……。でも、あの穴……さっきの魔物の巣って感じじゃなかったですし……」

「あ、明らかにダンジョンっぽかったっす……」

「街のすぐ近くに、謎の魔物が出現する未発見のダンジョンが……うん、とりあえず依頼どころじゃないな。すぐに冒険者ギルドに戻って、報告しなければ」




   ◇ ◇ ◇




「できたぞ。畑と果樹園と養殖場と水田と、それから畜産場だ」

「あっという間に造ってしまったでござる!?」


 金ちゃんがモルガネに支店として購入した物件。

 その地下倉庫のさらに地下に広い空間を掘り、そこを農場にしたのだった。


「これならわざわざ食材を運ぶ必要もないだろ。後はうちのイエティたちを使って、いつも通り収穫してもらえばいい」


 ちなみに地下倉庫と農場を繋ぐ通路には、トラップである玄関を設置。

 ドアの鍵は農場側についていて、地下倉庫側からは鍵がなければ開けることができないようになっている。


 これで従業員が勝手に農場の方に入ってくる心配はない。

 あとは早朝のまだ誰も出社してきていない時間帯に、イエティたちが地下倉庫に収穫物を運び入れておけばいいだけだ。


「後は金ちゃん、ダンジョンを通って行き来したかったら、いつでもマンガリッツァボアを使ってくれていいぞ」

「なんていうか、至れり尽くせりでござるな……拙者が自分で商売をしているというより、もはや丸夫殿の代わりにやっていると言っても過言ではないでござる……」



―――――――――――――

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